ストレスケア
「しゅーくんさんと瑠莉奈ちゃんはとりあえず同行お願いしますね~? また菜々美ちゃんが逃亡したら困りますし~」
俺たちはいいように利用されているだけな気がする。
まあ、高級ホテルにふたりだけでいてもな……。庶民の俺たちには居心地が悪い。
「それじゃ謝罪行脚へレッツゴーです~♪ あ、ちなみに謝罪会見は謝罪会見でちゃんとやってもらいますからねぇ~♪」
「むうううう~……」
菜々美のフラストレーションがめちゃくちゃ溜まっているのは膨らんだほっぺたでわかる。
本当にわかりやすいな、菜々美は。
「しゅーくん! ハグ!」
「……は?」
「だから、ハグ! わたし今すごいストレスを感じてるの! ケアして!」
「はぁあ!?」
「はぁあ!? じゃないよ! マネージャーにとってアイドルの心のケアも大事なお仕事だよっ! ほら、しゅーくん、ハグーーー!」
とはいっても、ここはそこそこひと目のあるホテルのロビーなんだが。
「大丈夫ですよ~♪ このホテルに出入りしてるのはうちの関係者ばかりですから~♪ しゅーくんさん、お願いします~♪」
俺が思っている以上に芸能界というかタマサキプロダクションの力はすごそうだった。
「ほら、しゅーくん、早くぅ~!」
「お、おう……じゃ」
仕方ない。これは仕事だ。
……大事な、仕事なのだ……。
自分で自分に言い訳をしながら、俺は菜々美を抱きしめた。
真正面からもろにハグをするかたちなので前面にいろいろなものがあたる!
「わーい♪ しゅーくんとハグ~♪ ハグハグハグ~~~♪」
菜々美からもこちらの背中に両手を回して抱きしめ返してきた!
うおおおおお……! 巨乳が俺の胸で押し潰される!
ああああああああ! やめて! もう俺のライフは0よ! 公衆の面前なのに!
「……破廉恥ポイント新設……3ポイント加算……」
また瑠莉奈によって新たなカードが作り出されてしまったか……。
しかし、これはまごうことなき俺の仕事なのだ……。
誰がなんと言おうと俺は尊い犠牲になっているのだ……。
よ、喜んでなんか、断じて……ない。ないったら、ないんだからねっ!
「……おにぃキモい……」
ああもう。菜々美からの好感度が上がるたびに瑠莉奈からの好感度が下がってしまう。
「ふふふ~♪ これで菜々美ちゃんのメンタルが安定するのなら安いものですねぇ~♪」
神寄さんは黒い笑顔を浮かべていた。
やっぱりいいように利用されている気がする……。