駄々っ子
「……菜々美ちゃん、駄々っ子……」
「わたし、さんざんこれまで我慢に我慢を重ねて生きてきたんだもん! もう欲求不満が爆発しそうなんだもーん!」
それは『欲求不満』とは違うのではないのだろうか……。
いやでも、菜々美の場合はそれもあるのか……?
俺とキスしたことで、ある程度満たされたみたいだしな。
「これからはストレスが溜まったらしゅーくんと思いっきりイチャイチャするからねー! それがわたしのストレス発散方法だよー!」
これが役得というやつだろうか。
でも、アイドルから過剰な身体的接触を受け続けるなんて俺の理性は持つのだろうか。
「……おにぃの苦難は続く……」
瑠莉奈からナレーター風にまとめられてしまう。
でも、俺にとっては瑠莉奈が頼みの綱だな……。
「……頼む、瑠莉奈……俺が道を過らないように導いてくれ……」
「……だが断る……」
断るのか……。
「しゅーくん、この一か月で愛をたっぷり育もうねっ♪ 既成事実いっぱい作っちゃおうねっ♪」
「だが断る」
今度は俺が断った。
「えーっ!? ひどいよぅ! しゅーくんの意地悪! 意気地なしー!」
「いや、まぁ、もう少し健全にな? 菜々美は清純派アイドルなんだろ?」
「私生活は別だもん! プライベートはしゅーくんとラブラブイチャイチャ糖分いっぱいな生活を送りたいもんっ!」
菜々美の意志は固そうだ。
……まぁ、もう、なるようにしかならないよな……。
俺も考えることに疲れた。というより菜々美の思考がぶっ飛びすぎているので、ついていくことは不可能であると悟った。
「……おにぃ……人生、諦めが肝心……」
そうかもな……。
やっぱりトップアイドルのパワーには抗えない。
でも、物事には道理がある。俺にも美学がある。
そうやすやすと屈してたまるものか。俺はそんな安い男じゃない。
ともかく、菜々美だけでなく神寄さんやファンも含めてみんながある程度納得できるかたちに持っていけるように努力しよう。
「……菜々美ちゃんの財産をゲットすれば越草家は安泰……」
そうかもしれないが、そんなものをあてにするのは別の意味で不健全というものだ。
俺はヒモになるつもりはない。働きたくないでござる。でも、ダメだ。
――ヴィイイイイン!
そこで菜々美のスマホが震える。
「むぅう~……神寄さん、しつこいよぉ~……!」
菜々美は頬を膨らませてスマホを手にとる。
「神寄さん、あと十五分後にホテルに迎えにくるって! さっそく謝罪に行くみたいだよぉ!」
まあ自業自得っちゃそうなんだろうが……。
「というわけでしゅーくんも一緒に謝ってね!」
俺は関係ないのに!
でも、思いっきりテレビで名前出されて巻きこまれてるか。
「……面白そうだし、瑠莉奈も同道する……」
なんだかんだで俺たちは幼少期の頃のように三人一緒に行動することになった。
当時とは、あまりにも関係性がかけ離れすぎているが……。




