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アイドル(やっぱりつよい)

「わわっ、大丈夫っ? しゅーくんっ!?」

「……ほんと、おにぃは手がかかる……」


 慌てる菜々美とは冷静な瑠莉奈。

 瑠莉奈は(かたわら)らに置いてあったティッシュ箱からティッシュを即座に手渡してくれた。


 さすが優秀な妹である。俺はティッシュを受けとり鼻血を拭く。

 続いてティッシュを適度なかたちに整え鼻に詰めてから、起き上がった。


「……ふぅ。これで応急処置はオッケーっていったところだな……」

「むうう……しゅーくん、免疫なさすぎだよぅー!」


 いや、菜々美がアグレッシブかつエキセントリックすぎるだけな気がするが……。

 まあ、風呂に入っていたことでのぼせていたということもあったろう……。


 しかし、菜々美とこんなかたちでキスをすることになるとは。

 とんだファーストキスになってしまった。


「わたし、チャンスは最大限生かす主義だからー♪」


 ほんと、アイドルって怖いな……。

 これじゃ、うかうか寝てもいられない。


「ちなみにわたしのファーストキスだからね♪ わたし清純派アイドルだから♪ えへへ~♪ しゅーくんのファーストキスゲットしちゃった~♪」


 菜々美はゴキゲンモードである。

 もう大満足といった感じで肌をツヤツヤさせている。


 一方で俺はゲッソリしている。生気を吸いとられたようだ。

 菜々美はパワフルすぎる。


「……おにぃ、ご愁傷様……吸いつき尽くされて干からびたら……骨くらいは拾ってあげるから……」


 瑠莉奈は俺に向かって合掌していた。

 もう俺は人身御供にでもなったようなものなのだろうか……。


「しゅーくん! 今度はちゃんと意識があるときにキスしようねー!」


 一方で菜々美はヤル気マンマンである。

 やっぱり俺のような凡人とは脳の作りが違うらしい。


 これがトップアイドルか……。

 こうなると既成事実を作られるのも時間の問題かもしれない。


 ホテル暮らし初日からこんな状況では、この先生き残れる気がしない(童貞死守的な意味で)。


 しかし、うっかり一線を越えてしまおうものなら菜々美は本当にアイドルをやめてしまうかもしれない。そうなると、俺はファンから完全にうらやま死刑フルコースに処されるだろう。


 なんだかウルトラベリーハードな人生になってしまった気がする。どうしてこうなった……。

 いや、まあ、恵まれているというか贅沢な悩みなのかもしれないが。


「しゅーくん♪ 幸せな家庭を築こうね♪ 子どもは三人くらいほしいな~♪」


 もうすでに菜々美の思考は結婚後にまで及んでいた。


「……おにぃは尊い犠牲になったのだ……」


 まだ犠牲になってない。

 でも、時間の問題だろうか……。


 強大すぎるアイドルパワーに対して、一般埼玉県民の俺はあまりにも無力すぎる。

 このままでは有無を言わさず幸せな家庭を築かされてしまいそうだ。


菜々美「面白かったらブックマークや評価してねー!」

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