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一難去ってまた一難

※ ※ ※ 


「…………ハッ……? こ、ここは……?」


 俺は目を覚ました。

 視界に映るのは……見知らぬ天井。

 シャンデリアなんかあったりして、やけに豪華だ。


「あっ!? しゅーくん! よかったー! 目が覚めたんだねーー!?」


 すぐ横から菜々美の声が聞こえたかと思うと、こちらの顔面に抱きついてくる。


「むぐぅ、むぐぅ!」


 うぐぐ! 窒息する!


「……菜々美ちゃん……おにぃをまた黄泉送りにするつもり……?」


 反対側から瑠莉奈のツッコミが入る。


「あっ、そうだった! しゅーくん、ごめんね! いま離れるから!」


 巨乳によって塞がれていた呼吸が回復した

 そして、視界には巨乳の代わりに菜々美と瑠莉奈の顔が映る。


 霞がかっていた思考も、だんだんとクリアーになっていく。

 ……そうか。

 俺、菜々美の巨乳で窒息して意識不明になっていたんだな……。


 なんということだ。まことにアホらしい理由で死ぬところだった。

 ファンからの怨念によって、うらやま死刑になる呪いでもかかっていたのだろうか。


 まぁ……巨乳死というのは、ある意味、理想の死に方かもしれないが……。

 しかし、戒名に乳がついていたら嫌だな……。

 『圧乳院窒息昇天居士』とかつけられたら末代まで笑われそう。


「……まったく、おにぃには呆れるばかり……妹として恥ずかしい……」


 いや、いずれも不可抗力というか……。俺に非はあるのだろうか?

 ただ単に菜々美が暴走していただけだと思うのだが……。俺、被害者なのでは?


「ともかく、しゅーくんが無事でよかったよぅ~! めちゃくちゃがんばって人工呼吸したかいがあったよぅ~!」


 なんだとぅ!?


「…………すごい光景だった……」


 瑠莉奈は俺たちから視線を逸らす。

 頬は赤面していた。


「えへへ~♪ しゅーくんといっぱいキスしちゃったぁー♪」


 菜々美は満足そうに笑みを浮かべている。


 ……なんということだ!

 俺が意識不明になっている間に人工呼吸という名目で菜々美からキスされまくったのか!?


「きゃーーっ!」


 恥ずかしさのあまり俺は乙女のような悲鳴をあげてしまう。


「……おにぃ、キモい……」


 だからキモいって言うな! 傷つく!


「むぅう~……! しゅーくん、わたしとキスしたのに嬉しくないの!? 自分で言うのもなんだけど、わたしトップアイドルなんだよっ!?」


「い、いや、まぁ、それは、そうだが……嬉しさよりも衝撃のほうがデカくて……」


 これは、完全にファンからうらやま死刑に処される。

 市中引き回しの上、石を投げられ、八つ裂きにされるレベル。


 というか、そんな、人工呼吸がファーストキスだなんて……。

 つまり、今、俺が味覚として認識している甘酸っぱさは菜々美の――!?


「ぶぐわっ!」


 そう思い至った瞬間―――鼻血が出た。

 再び呼吸が困難になる。


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