表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/85

埼玉的な三途の川

★☆★


「わーい」


 お花畑の中を俺は駆けていた。

 咲き乱れる四季折々の花たち。


 小鳥の囀り。

 心地よい風。


 まさにここは別天地。

 まごうことなき楽園。


 なんとなく秩父の美の山公園を彷彿(ほうふつ)とさせる場所だ。


「おー、川だ」


 気がつけば、俺は川の(ほとり)に辿りついた。

 立て看板があり「三途の川」と書かれている。


 はて。どこかで聞いたことのあるような川の名前だな。

 埼玉にあったっけ、そんな川。でも、聞き覚えがある。


「うーん、利根川か荒川の支流かな。それとも秩父の山奥……三峰山(みつみねさん)あたりの川かもしれないな。三がついてるし」


 埼玉マインドの持ち主である俺は、そう判断した。


「…………おーい、おーい……修人ー…………」


 おや。向こうで手を振っているのは……死んだじいちゃんとばあちゃんじゃないか。

 久しぶりにじいちゃんとばあちゃんと一緒に埼玉銘菓でも食べるか。


 俺は川のそばの舟にいた鬼に秩父の和銅遺跡で拾った和同開珎(わどうかいちん)を渡す。

 三途の川の舟の渡し賃だ。


「さあ、いくか。彩の国埼玉から黄泉の国へ」


 漕ぎだす舟。


 水面は川越にある新河岸川(しんがしがわ)のように穏やかだ。

 これならすぐに向こう岸へ辿りつけそうだな。


 しかし、そこで――。


「しゅーくぅーーーーーーん!」


 いきなり水中から菜々美が飛び出してきた!


「うああああああああああっ!?」


 菜々美に抱きつかれた俺は舟から川へ転落してしまう。


「しゅーくん! まだそっちにいっちゃだめぇーー!」


 水中なのにしゃべれるだと!?


 よくわからないが、俺はそのまま菜々美に引きずられていって元いた岸に戻されてしまった。


「……はぁはぁはぁ……な、なんなんだ……? あ、あれ? 瑠莉奈?」


 上陸した俺を待っていたのは妹の瑠莉奈だった。


「……おにぃ……キモイ……」


 いやだから兄に対して気軽にキモイって言うなって、傷つくから!


「しゅーくん、だいしゅきぃいーーーー!」


 そんな俺に対して、再び菜々美が抱きついてくる。


「うぷぁ! うぐぐぅっ!?」


 巨乳によって呼吸ができない。窒息する!

 ……し、死ぬ! まだ俺にはやり残したことが!


 そこで、俺は気がついた。

 これ、夢じゃなくて本当にリアルで死にかけているのでは?


 そのことに気がついた途端、俺の意識はどこか遠くへ()んでいった――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ