アイドル(つよい)
「ほらほらぁ♪ しゅーくん、どう~♪」
「………すごく、気持ちいいです……すごく、気持ちいいです……すごく、気持ちいいです……すごく……」
俺は機械音声のように繰り返す。
心を無にしないと、こんな状態を乗り切れない。
「むぅう~! しゅーくん、なんか心ここにあらずって感じだよぉ~!」
しかし、菜々美は不満のようだ。
「しゅーくん! もっとエキサイティングしてよ! 感情をちゃんと表現してよー! わたしはいつでもしゅーくんに襲われてもオッケーだからね!」
アイドル怖い。肝が据わりすぎている。
こんな清楚可憐・純真無垢を具現化したような顔をしてるのに、そんな大胆な発言をするとは。
「……もしかして……ビッチ……?」
「ビッチじゃないもん! 清純派アイドルだもん!」
瑠莉奈の疑念は、すぐに菜々美本人によって否定された。
やっぱり芸能界って恐ろしいところだな……。
「とにかく菜々美。えっと、あとは……自分で洗うから……」
「えーーーっ!? 遠慮したらダメだよ、しゅーくん! 芸能界には謙譲の美徳なんてないんだよ! チャンスはモノにしないと! だから、バッチコーイ!」
チャンスをモノにするって、それは菜々美を押し倒せってことか?
……いやいやいや。ありえない。
菜々美はトップアイドルなのに貞操観念とかないのだろうか。
「……菜々美ちゃん、最強キャラすぎる……先が思いやられる……」
瑠莉奈も呆れている。
「むぅう~! でもでも、しゅーくん、難攻不落だよぉ~! わたしのアイドルパワーがぜんぜん通用しないなんてー!」
通用しないのではなく、こっちは必死に耐えているのだ。
心を無にして、スルーしているのだ。苦行に耐えているうちに悟りを開けそうだ。
「むううー! なんだか逆に燃えてきたー! こうなったら絶対にしゅーくんを落としてみせる! わたしにメロメロにさせちゃう! 信仰の対象としてではなく恋愛対象として見てもらえるようにがんばるーーーっ!」
やっぱり菜々美はメンタルが強靭だ。さすがアイドル。
俺にとっては逆にピンチかもしれないが。
「というわけで! しゅーくん! 前も洗うよーーー!」
「アウトォーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
俺は高らかに叫んだ。
「ど、どうしたの、しゅーくん!? 急に叫んで」
「いや、瑠莉奈から不健全だと指摘される前に自らアウトだと宣言してみた」
「……でも、ポイントは加算する……不健全ポイント5ポイント追加……というか、このペースだとすぐにポイントカードがいっぱいになってしまう……」
兄もそう思う。
「むーーっ! しゅーくん真面目にやってよ! ちゃんとわたしと向きあってよぉー! 物理的にも精神的にも!」
いや、だから、その……現実を直視したら、理性がぶっ飛んでしまうんだって!
俺の心労を少しは理解してほしい。
あとは肉体を制御するのも大変なんだ(どの部分かは言わないが)。
「……バーサーカーアイドル……」
「バーサーカーじゃないもん! わたしは戦士というよりも魔法使いだもん!」
絶対に狂戦士だろう。
菜々美「みんなの応援が菜々美ちゃんのパワーになるーーー!」




