背中ゴシゴシタイム
「しゅーくん! わたしは幼馴染だから別に裸見られても平気でしょー?」
「平気じゃない!」
ほんと、菜々美の脳内はどうなっているんだ。
汚れきった芸能界で毒されてしまったのか……。
「しゅーくん、わたしは心も体も清らかだからねっ!」
俺の心の中に浮かんだ疑念は、すぐに菜々美によって打ち消された。
俺の思っていることは、お見通しというわけか……。
「……おにぃ……表情に思っていることが出すぎ……」
無表情で感情が読みとりづらい瑠莉奈から言われると説得力がある。
ちなみに妹相手のトランプ勝負では常に負けまくっている俺である。
「わたし、しゅーくんひとすじだもん! 変な営業しないもん! ぷんぷん!」
菜々美も激おこである。
普通の女子が「ぷんぷん!」とか口に出して言ってたら痛すぎるが、菜々美は超絶美少女アイドルなので許される。むしろ、かわいい。美少女はつくづく得な世の中だ。
「ともかく! 菜々美ちゃん、しゅーくんのお背中流しまーす! しゅーくん、座ってー!」
「お、おう……」
もうこうなったら菜々美の気のすむようにするしかない。それが一番手っ取り早いだろう。
俺は言われたとおり椅子に座った。
菜々美はボタンを押して、湯船に湯を張っていく。
続いて、風呂桶にも湯を溜めていった。
「さあ、しゅーくん♪ 体洗ってあげるね~♪」
「……不健全ポイント2ポイント追加……」
左手にボディソープ、右手にタオルを持ってニッコリする菜々美。
一方で、冷たい視線で俺に告げる瑠莉奈。
菜々美の好感度が上がると瑠莉奈の好感度が下がるという法則ができつつある。
どうすればいいんだ、俺は……。
「わたしは我が道をいくもん! わたしのことは何人たりともとめられないーー!」
菜々美はボディソープをタオルにたっぷりかけると、俺の背中をゴシゴシし始めた!
「あああああああああああああああ!」
い、いかん。これは、だめだ。不健全だああ!
「えへへ~♪ しゅーくん気持ちよくなってねぇ♪」
「……不健全ポイント3……ううん、5ポイント……」
嬉しそうな菜々美と、不機嫌そのものの声を発する瑠莉奈。
なお、俺はヘブン状態である。
人から背中をゴシゴシされるのが、こんなに気持ちEとは……。
しかも、トップアイドルである菜々美からとは……。
もし菜々美から背中をゴシゴシしてもらえる権利をオークションにかけたら、すさまじい額になりそうだ……。
「どう、しゅーくん♪ 気持ちいい~? ごしごし~♪」
「あ、ああ…………すごく、気持ちいいです……」
なぜか丁寧語になってしまう。
というか、ふたりっきりだったら理性がぶっ飛んでたかもしれない。
やっぱりこの場に瑠莉奈がいてくれてよかった。
「……おにぃ……キモい……キモすぎる……」
瑠莉奈から蔑んだ瞳を向けられて、冷たく言い放たれる。
だが、今の俺にとっては、これが本能抑制装置の役割を果たしてくれる。
いいぞ、瑠莉奈、俺のことをもっと罵ってくれ。