俺の推しは押しが強い
「えへへ~♪ どう? しゅーくん♪ 似合ってる~?」
菜々美は前かがみになるような煽情的なポーズをとりながら、こちらを上目づかいで見てきた。
「ぐはっ!」
あまりの破壊力に吹っ飛びそうなほどのダメージを受けてしまった。
俺の中の理性ゲージが大幅に削られる。ダメージコントロールのために顔を横に向けた。
「もうっ! 『ぐはっ!』じゃないよ、しゅーくん! ちゃんとわたしのことを直視してよ! わたしを見てぇ!」
せっかく俺が目を逸らしたのに、菜々美は俺の視界に移動してポーズをとってくる。
やめて! もう俺のライフは0よ!
「……バカップル……」
瑠莉奈から冷静かつ辛辣かつ容赦ないツッコミが入る。
まだカップルではないんだが……。
というか、菜々美、アグレッシブすぎる。
やはり芸能界は恐ろしいところだ。頭のネジがぶっ飛んでいる。
スポットライトを浴び続けることで羞恥心とかがなくなってしまうのだろうか。
見られることが喜びになってしまうのだろうか……。
「しゅーくん! 言っておくけど、わたしだって見られて嬉しいのはしゅーくんだけなんだからね!」
俺の心の中の疑問は即座に否定された。
コミュ力の低い俺は思っていることが表情に出やすいのだ。
「ともかく! せっかくの水着なんだから見てぇ! ほらほらほらぁーー!」
ズズイッと迫ってくる菜々美。
俺の推しは押しが強い。
……仕方ないので、俺は菜々美を直視した。
いや、直視というような生温い表現は適切ではないな。
ガン見した。
「うぐぐ……」
なんでこんなに美少女なんだ。
なんでそんなに抜群のプロポーションなんだ。
尊すぎて半径十メートル以内に近づけないレベル。
思わず、あとずさりしそうになるが――。
「しゅーくん! 逃げちゃダメ!」
菜々美は両手を伸ばして、こちらの両腕を掴んできた。
結果として、俺と菜々美の距離はメチャクチャ近くなる。
そして、身長差によって俺はモロに菜々美の谷間を見ることになる。
「うっ!」
息がとまる。
衝撃でショック死しかねない。
「…………た、助けてくれ、瑠莉奈……」
俺は辛うじて妹に助けを求める。
「……リア充爆発しろ……」
妹から蔑んだような目で断罪されてしまう。
陰キャの権化のような俺が「リア充爆発しろ」なんて言われる日が来るとは……。
「しゅーくん、わたしに対して免疫つけてよ! このままじゃイチャイチャできないでしょ? わたし、ずっとしゅーくんとイチャイチャするのが夢だったんだからー!」
そんなこと言われてもハードルが高い。
それに万が一理性ゲージがぶっ飛んでしまったら、それはそれで問題である。
耐えるしかない。
これは、ある意味、すさまじい苦行である。
「う、うう、うっ……」
俺は精神力を高めて、菜々美を見続ける。
心拍数が上がる。
脂汗が滲み出る。
ほんと、菜々美はあまりにも美少女すぎる。
そんな美少女から好感度MAXというのは本来なら喜ぶべきことなのだが……。
しかし、相手はアイドル。
理性を失ったら、いろいろな意味で終わってしまう。
芸能事務所から抹殺されるかもしれない。
「うぐぐぐ……」
俺は滝のような脂汗を滲ませていった。
なんというメンタル修行。
「しゅーくん、すごい汗だよ! やっぱりこれ絶対にお風呂に入らなきゃダメだよー! というか、わたしも水着でずっといると冷えちゃうし! お風呂へレッツゴーーー!」
菜々美「みんなー! 楽しかったら評価入れてねー!」