鉄壁の守備力VSアイドルパワー
「……わかりました。マネージャーの仕事、受けさせていただきます……」
「しゅーくん!?」
「……おにぃ……」
「ふふふ~♪ 賢明な判断ですねぇ~♪ しゅーくんさんは学生さんなのに社会の仕組みがよくわかってますね~♪」
というか、菜々美が暴走しすぎなだけだ。
「……菜々美、落ち着いてくれ……俺たち、まだ高校生だしな……人生、先は長い……」
「大丈夫だよ! 養ってあげるからー!」
「いや、それじゃ、俺、情けなさすぎだから……」
この年齢でヒモなんてダメ人間すぎる。
「いいですね~、しゅーくんさん堅実な考え方ですね~、とても好ましいですね~」
「……おにぃ……確かに……おにぃがいきなりヒモニートになったら軽蔑するかも……」
「愛さえあればそんなの関係ないよぉー!」
とはいってもなぁ。
俺と菜々美は十一年も会ってなかったのだ。
もしつきあい始めたとしても、うまくいくのかどうか。
アイドルと一般人。住む世界が違いすぎる。
そして、温度差も激しすぎる。
菜々美の脳内で俺は美化されすぎである。
つきあい始めたら幻滅するのではないだろうか。
「菜々美。俺は本当にただの冴えない男子高生だからな? 理想と現実のギャップを知ればアイドルをやめてまで結婚しようというような男子じゃないと気がつくはずだ」
自分で言ってて悲しくなるが、それが現実だ。
俺はいつだって冷静な男なのだ。
というか陰キャはいつだって浮かれることなく冷静に生きるしかないのだ。
「しゅーくんさんはとても理知的ですね~。その年齢でそこまで客観的に物事を見られるのはとても好ましいです~。菜々美ちゃんの美貌を前にしても動じないところは素晴らしいです~♪」
神寄さんからの評価が鰻登りである。
この底知れない人から褒められても嬉しくないというか逆に恐怖すら覚えるのだが……。
「ううう、しゅーくん……しゅーくんがそこまで鉄壁の守備力なんて……わたしのアイドルパワーが通じないなんて……」
……すまんな。俺は非モテ街道を進んできただけあって色恋沙汰に関しては冷静というか無関心だったのだ。一生独身だと思ってたからな。
しかし、菜々美は――。
「でも、なんだか燃えてきたよー! わたし、絶対にしゅーくんを振り向かせてみせるっ! どんな手を使ってでも!」
菜々美は檻から手を離し、両手で握り拳を作って決意を固めていた。
体操着&ブルマなのでスポ根もののキャラみたいだ。
しかし、どんな手を使ってでもというのが気にかかるが……。
「菜々美ちゃん、そのためにはまずはその懲罰房から出ないと話にならないですよね~。まずは迷惑をかけたみなさんに謝罪行脚しましょう~♪」
ここがチャンスと見たのか、神寄さんは押してくる。
しかし、菜々美は「むうぅー」と唸る。
「なら、お仕事を続けるかわりに……条件があります!」
キッと神寄さんを見つめてから、菜々美はそんなことを言い出した。
菜々美「みんなー! 菜々美ちゃんを応援してねー!」




