よし、とりあえず好きに生きよう。
注意・ラストぶったぎり仕様なのでNGのかたブラウザバックでお願いいたします。
只野はな、齢28にして異世界に立つ。
…我ながら、なに言ってんだろうか。だか頭に浮かんだのがそれだったので。これが現実逃避か。
心境としては『マジかよ』って。
分かりやすく端的にいうと、あれだ。な○うとかでみる召喚的なやつ。
よく見るやつである。ネット上でな。しかし当事者となってしまってはそうも言っていられない。ごめん被るシチュエーションこの上ない。
いかにも荘厳さを放ってる白灰色の石作り神殿風な屋内の様子と、足元で謎発光してる魔方陣。
同じく魔方陣範囲内にいる座り込んだ従姉妹、目の前にいるキラキラ系列のイケメン集団。
役満である。
なお追加情報として、付近にいる従姉妹は天然が入った慈愛清楚系聖女を歩みそうな美少女だ。
…わたしにとって、天敵ともいう存在だが。キャラ的な要素で。関係性は悪くないし、悪感情も向けられていないとは思う。本心は分かんないけども。
ただ、わたしが陰キャ特有の特攻ダメージ(精神的なやつ)を勝手に食らってるだけだ。
年に数回ほど顔を合わせる都合で、お姉ちゃん、と慕ってくれてたあたりは嬉しく思う。お年玉あげたりと微笑ましい交流がちょうどよかった。
でも最近はわたしの住まう安アパートの一室にある日、彼女が転がり込んできてから、わたしとしては極大のダメージを食らう日々がはじまった。わたしが他人と暮らすのは無理があった。
自負あるズボラで面倒くさがりで、そのくせ小心で、自分の決めた領域に手を出されるのが嫌いで。しかも口下手で、話しても要領を得ないとよく呆れられる。人付き合いとか無理である。
休みも遊びに行くとかより部屋でゴロゴロしてるのが至福。
日曜日の理想的な過ごし方が携帯や本、マンガをお供に、布団にくるまってゴロゴロしたり昼寝したり。簡単につまめるものを食べて最低限の家事をやるだけ。丁寧な暮らしとか縁遠いにも程がある。部屋、ゴミこそ落ちてないがすごく散らかっていたし、その方が落ち着く。
そんな中身に、本体165センチ、体重55キロ。そしてぱっとしない顔面、よくて中の下、悪ければ…いややめよう、空しいだけだ。いうほど気にしてないしな。べつにいいし。
かろうじて直毛の黒髪が誉められたことがあるくらい?
でもこれヘアドネーションで定期的にバッサリいくために放置してるだけだしな。年いち目安で括れる程を残してる。
なぜかって?括っとけばだいたいの寝癖はどうにかなるからだよ。
化粧も貰い物とか100均だよ。化粧水や夏場の日焼け止めはやるけど普段からほぼ化粧しないよ。アイラインとか技量的にも引けない。めんどい。職場からなんも言われないことを良いことに、写真撮るとかがある日のみ。毎日顔をあれこれしてる女性の皆さま方に感服するばかりである。
わたしには無理だ。あらゆる意味で。最低限、もしくはアウトな路線を歩んで久しい。
もはや他人に認められることに希望が持てない。そんなんに労力つかうなら他に充てたい。ゴロゴロする事とか。
できるだけ他人に関わらず、一人ゴロゴロしていたい。
それがわたしである。
それに引き換え、我が従姉妹殿。
齢17、輝くような美少女。目鼻立ちははっきりしており鼻梁はすっと通って長い睫に縁取られた大きなぱっちりした目、小振りの鮮やかに色づくの潤いある唇等、ザ・醤油顔のわたしとは比較できない造形美、それらが小造りに纏まっている。
快活さを表すような、明るくも清楚さが損なわれない落ち着いた色みのセミロングは手入れが行き届いて艶々サラサラしている。
わたしの貧相な語彙力では表しきれない、めっちゃ美少女なのだ。
似てんのは、身長くらい。でも体格っていうか体型はまったく別物。なんかもうすごくプロポーションがいい。体重は知らんが確実にわたしより軽い。
そして、天は一人に二物どころか三物四物五物与えたもうた模様。
身体能力も優れ、運動神経抜群。学業も抜かりなく上位をキープ、ピアノ弾けるしフルートとかも吹けるそうな。そして料理上手。片付け上手。家事上手。
それでいて、それら高スペックに奢らない、誰からも好印象持たれること間違いなしな優しく、明るい良い子。芯はあるし自分の意見ははっきり言うが、周りの人間も想い遣れて面倒見がよい。
どこの超人かと思うような、そんな人物が我が従姉妹殿であった。
そんな彼女が唯一足りないものがあるとしたら、きっとここぞというところのラックくらいであろう。
幸運こそ天がもたらしていたなら、彼女のステータス画面は向かうところ敵無しの最強パラメータであったと思われる。
彼女、『むしろ、ほかで特出してる箇所の帳尻をそこで合わせてない?』というくらいの、波瀾万丈な生活をされていた。こんな干物どころか社会人としてギリギリで安アパート住まいの、年に数度顔を合わせる程度の親類のところに来るくらいには。
そして、おそらく、そんな彼女の不運はとうとう世界の壁を超えて来たらしい。
ぺたりと座り込んで呆然とした彼女に、対面してるイケメン集団は熱い視線でロックオンしているこの状況。
明らかにめんどい予感。
しょうがないので、彼女に声を掛けて手を貸して立たせるところから始めよう。
そして、この○ろう的シチュエーションが比較的穏当な部類に振り分けられる流れであることを、ひっそりと心から願った。
結論。
やはり彼女のラックは通常運行であった。
しかも今までのあれこれとは一線を画す模様。
過干渉や無関心の親、変態のストーカー行為、隣家からの火事による住居の焼失、ほか事故等もろもろ以上にハードな展開になりそうだ。
なんてったって、場所が魔法ありのファンタジーワールド。
しかもあらゆる意味で歓迎出来ない、なろ○フラグの乱立振りが見て取れる。ダークな異世界恋愛から暗黒ハイファンタジーまでジャンルによらず既視感がやばい。思わず遠い目をしてしまった。
幸い、わたしも現地人と比すればの魔法チートは手に出来たものの、聖女な彼女と比較すれば、吹けば飛ぶような感じ。
世界は変われど、やはり彼女が世界の中心になるのは相変わらずだった。
そして、世界は彼女に優しくない。
「お、お姉ちゃん、……私たち…帰れるよね?」
前を見据え、震えながらも希望を捨てない、それでいて縋るような声に。仕方ないので彼女の背を撫でて、応えた。
わたしのような非才極まりない身としては非常に居たたまれないのだか、非才なりに今回も頑張って切り抜けるしかなさそうである。実に不本意極まりない。
…我が人生において、なんだかんだ墜落寸前の低空飛行を成立させてきた、わたしの悪運が保ってくれたら良いなあ。
わたしは心置きなく、一人でゴロゴロしてるのが至福なのだ。
叶うなら、彼女には幸せになってもらいたいものだ。
切実に、いつか、わたしと関係ないところで。