再会 -2-
俺は生涯、二度と言うことのないであろう台詞を、桜に投げかけた。鳩の羽音に負けないように、少し大きめの声を出す。
「何で鳩に襲われてるんだよ!!」
すると桜が、飛び交う鳩の隙間でムッとした表情を作って言い返してきた。
「襲われてるんじゃなくて、戯れてるんだよ!!」
俺も負けじと言い返す。
「はあ!?頭おかしいんじゃねーの!?」
そうすると、桜は一瞬驚いた顔をして、直後、ぷぷっと吹き出した。
「あっはは!ねえ、これね。未来で颯斗がやってたこと、真似してみたんだよ!」
そして笑いながら「つまり、君は自分で自分の頭がおかしい、と言ったことになるね」と続けた。
俺は、口をあんぐりと開けて呆然と立ち尽くした。未来の俺は何をしているんだ。
桜は「ほ〜ら、あっちいけ〜」と間の抜けた声を出しながら、餌で鳩を離れた場所へと誘導した。
そして俺の方を向いて、へへっと笑うと「また会えて嬉しいな」と言って目を細めた。
俺たちは近くのベンチに座った。
暫くの沈黙の後、桜が口を開いた。
「あの…お店では、ごめんなさい。あんなこと…知りたくないことだったよね」
俯いて恐る恐る言葉を溢しているのがわかる。
俺は桜の言葉の最後に被せるように、「俺もごめん。驚いて、つい怒鳴っちゃって」と言った。
これは紛れもなく本心だ。
桜は少し黙った後、バッと勢いよく顔を上げて、俺の目を直視する。
「実はね、あの話には続きがあって」
「私ね、颯斗を救いたい。颯斗が死なない未来にしたいの。ううん、する。私きっと、その為にここに居るんだって、思う」
桜は、自分に言い聞かせる様に、力強く言葉を紡いだ。
確かに、俺がどんな風に死んでしまうのかの経緯を知っている桜ならば、俺の死を未然に防ぐことができるかもしれない。──でも。
「でも、それじゃあ未来が変わってしまうんじゃないか?」
俺の問いに、桜はキョトンとした顔をする。
おいおい、なんだ、その顔……だって、あんなに「未来を変えてしまうような事は教えない」と豪語してたじゃないか。
「それは、私が望む未来だから、良いんだよ」
「はぁ!?」
あまりにも自分勝手な言い分に、つい強く反応してしまった。
「ふふ。私ね、我儘だから。好きな人には、長生きして欲しいの」
「えっ?理由ってもしかして、それだけ?」
「うん、それだけ。"好きな人には長生きして欲しい"って、未来で私が颯斗に、何度も何度も言う言葉だから。今のうちから頭に叩き込んどいてね」
「は、はぁ…」
既に立っている死亡フラグを折ることができるのは確かに俺にとっては有難いことだが、ひとりの女の身勝手な理由で、簡単に未来を変えてしまっても良いものなのだろうか。
しかし、だ。
それで俺も助かって、桜も未来に戻ることができたなら、未来には桜の会いたかった俺が存在することになり、お互いwin-winということになる。
「私は颯斗の命に危険が及ばない様に、絶対に守ってみせる。だから颯斗、私が未来に帰れるように協力してくれないかな」
桜の瞳はまさに真剣そのもので、「意志の強さが宿る瞳」とは、こういうもののことを言うのだと思った。
俺は「わかった、協力するよ」と言って握手の手を差し出したが、桜は「やったあ!」ととびきりの笑顔で叫んだ後、俺に勢いよく抱きついてきた。
桜の身体は、小さく震えていた。
少し肌寒いせいかもしれない。
俺は行き場のなくなった手をそのまま桜の背中に回して、彼女を抱き締めた。