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ホストの俺と、未来からきた不倫女  作者: 漣 蓮太郎
第一章
6/8

再会

その後のことは、あまりよく覚えていない。

「桜は頬を伝う涙も拭かずに、会計をして店を出て行った」という様なことを、力弥から聞いた。


幹部に何があったか聞かれたが、「彼女は古い知り合いで、昔の古傷を抉られたから」という嘘の説明をした。

「彼女は未来から来た女で、俺が死ぬと言われたから怒鳴った」と正直に話したとしても、「客の悪い冗談として受け取れない俺がおかしい」と思われるのがオチだ。

まあ兎に角、幹部からの俺の評価が下がったのは明白で、俺はしばらく要注意人物として目を付けられるだろう。


即ち、今日の成果は「最悪」。

この一言に尽きる。


自宅に帰り、電気も点けないままベッドに横たわる。スーツに染みついた煙草と酒のにおいが、今日はやけに鼻につく。

窓の外に目をやると、夜空にはぼんやりと光る月が、物憂げに佇んでいた。


酔いも怒りもすっかりさめて、あの時店で怒鳴った俺は、まるで俺ではなかった様な感覚に陥っている。


…桜という存在も、もしかしたら夢だったのかもしれない。


「夢なら良いのに」


ふと呟いて、目を閉じる。

…考えたくもない筈なのに、桜の顔が脳裏に浮かぶ。泣いたり笑ったり、忙しいひとだったな。


もしかしたら、「夢なら良いのに」と一番思っているのは、彼女なのかもしれない。


彼女の話が真実だとしたら、彼女が元の時間軸へ戻る唯一の手掛かりは、今のところ俺だけだ。

それなのに、その俺に突き放されてしまった彼女は、これから一体どうするのだろう。


泊まるところはあるのか。

そもそも、金はあるのか。

頼るあてもないんじゃないか。

連絡先くらい、交換しておくんだった。


それに、まだ桜の話が真実だと確定したわけでもないのに、あんな風に怒鳴る必要はなかったんじゃないか。


ぐるぐると渦巻く後悔の念に囚われているうちに、月は仕事を終え、朝陽が昇り始めていた。

ベッドに潜り暫く目を閉じてみたが、どうしても眠れる気がしなかったので、シャワーを浴びて少し散歩をしようと思い立った。


細身のデニムとTシャツというラフな出立ちに、ドクターマーチンの8ホールブーツをやや乱暴に履いて玄関のドアを開ける。

マンションのエントランスを出ると、路地で遊んでいた小鳥たちが、俺を見つけて駆け寄ってきた。

俺がたまに餌をやるので、覚えているようだ。

マンションの前で野鳥に餌をやるのは、あまり良くないとは思うのだが、つい可愛くて甘やかしてしまう。

ただ、今日は餌を持っていなかったので、彼らの望みを叶えてやることができない。後ろ髪を引かれる思いで、その場を後にした。


少し歩くと、新宿駅が見えてきた。まだ朝の早い時間ということもあって、駅前は閑散としている。新宿という街は、朝に眠るのだ。


ひとり、横断歩道の信号待ちをしていると、反対側の小さな広場に目が止まる。


「えっ?」


その瞬間、俺は自分の目を疑った。


人が、鳩の群れに襲われていたからだ!


信号が青に変わったと同時に、慌てて駆け寄って声を掛けた。


「あの…!大丈夫ですか!?」

「ええっ!?あっ、ハイ!!大丈夫で── あっ」

「あっ…」


飛び交う鳩の群れの中から姿を現したのはなんと、桜だった。

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