表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホストの俺と、未来からきた不倫女  作者: 漣 蓮太郎
第一章
5/8

衝撃

あとは、こんな質問もしてみた。


「俺らはどんな風に出会ったの?」


既婚者であるならば、純粋な出会いである可能性は低い。

つまり、ホストクラブの客だったんじゃないか、と考えたからだ。

もしそうなのであれば、俺は桜に色恋営業を仕掛けていたということも考えられる。

色恋営業というのは、客に対して、まるで恋愛をしているかのように接する営業手法のことだ。

この手法は特に珍しいわけでもなく、どちらかというとスタンダードなやり方で、さっき来ていた莉穂も色恋営業だ。


しかし、俺の予想は大きく外れた。

桜の回答は、全く想定外のものだったのだ。


「私たちの出会いはね、ゲーム。ゲームの中で、私たちは出会う」

「ゲーム?」

「そう!毎日一緒にゲームするの。スマートフォンでできるオンラインRPGなんだけど…颯斗はすごく上手くて強くて、私はいつも助けて貰ってた」


桜は笑顔の花を満開にさせて、イキイキと話している。

余程楽しかった思い出なのだろう。

俺は元々インドアで、今でも、ゲームは好きな趣味のひとつだ。

だから、33歳の俺がゲームをやっているということには、何も違和感はない。

寧ろこれで更に、桜と俺の関係の信憑性は増した。


一応、「ゲームのタイトルは?」と聞いてみたが、桜は予想通り「それは教えられない」と口を噤んだ。彼女はそれ以上何も言わなかったが、表情はさっきと同じく、自慢気で偉そうだった。


「じゃあこれ、最後の質問だけど」

「はい」

「未来に帰る方法とか、わかってるの?」


すると桜は、腕を組んでウンウンと頷いた。

「そう、それなんだよ」そして「その手掛かりを探すために、あなたに会いに来たの」と言った。

なるほど。それでここを訪ねてきたわけか。


「…で、俺に会って、何か分かりそう?」

「うーん…たぶん、おそらく、もう少し、な感じ」

「なんだそれ」


笑い事ではないが、間の抜けた回答につい笑ってしまう。

桜は俯き加減で口元に拳をあて、ぶつぶつ独り言の様に話す。


「私、ここに来る直前の…未来でのさいごの記憶が思い出せなくて。でも、ひとつだけ覚えてることがあって」


桜は顔をあげて、強い眼差しを俺に向けた。


「私ね。さいごに"颯斗に会いたい"って、強く願ったの。……だから、颯斗に会えば何かわかるかもって思って」


それは余程、強い願いだったのだろう。

俺に会いたいと願う桜の強い想いが、桜を過去へとタイムスリップさせた。


聞けば聞くほど、真実味に欠ける話だ。

桜には「信じる」と断言したが、内心は半信半疑だった。

半分信じている理由は、単純に「信じた方が面白いから」だ。

これがもし真実であればこれ以上ない程に非日常であり、スリリングで刺激的な経験になる。


しかし、これが仮に真実だとして、桜は最後に、何故そんなに俺に会いたいと願ったのか。時空を超える程に。


「ごめん、もう一つだけ聞いていい?これで本当に最後にするから」


「…うん」


「桜さんは、何でそんなに俺に会いたかったの?」


「それは…その」


桜は、俯いて言葉に詰まった。

その小さな唇は、少し震えている様にも見える。


「あー…もしかして。俺が誰かと付き合ってて、お互いに会うのが難しい状況だった、とか?」


もしそうだとしたら、その付き合っている彼女にも申し訳ない話だが、未来の俺がどうなっているのかは俺自身にも予想がつかない。


しかし、桜は首を小さく横に振った。

そして「…すごく、言い難いんだけど」と視線を上げて、再び口を開いた。


「颯斗は、交通事故に遭って…死んでしまったの。だから、私…」


頭が、真っ白になった。


俺が、死ぬ?交通事故で?

30代半ばで?嘘だろ。いや、嘘だ。


「…嘘だろ」


「……」


桜は、再び俯いた。


嘘だ、そんな筈ない。俺が死ぬなんて。

じゃあ俺は今、何のためにホストやって、金を貯めてるんだよ。


「…嘘だよな?」


「……」


桜は、押し黙ったままだ。


…おい、何とか言えよ。


じゃあ、俺の夢はどうなるんだよ。

どん底まで落ちて「人生碌なことがない」って落ち込んだけど、また金貯めて、イチからやり直そうって誓ったばっかりなのに。

俺はもう、未来を見るなってことなのか。


ああ、なんでだよ。なんで。

俺はなんで、この世に────。


「ごめんなさい…!」


…なんでお前が謝るんだよ。


「本当にごめんなさい…」


…お前が謝ったって、どうにもならないだろ。


「全部、私のせいで─────」


…うるさい、うるさい、うるさい!


「いい加減にしろ!」


気付けば、俺は、叫んでいた。

ハッとなって桜を見ると、その瞳からは大粒の涙がぼたぼたと零れ落ちている。


何で、お前が泣くんだ。

泣きたいのは俺の方だ。くそ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ