表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホストの俺と、未来からきた不倫女  作者: 漣 蓮太郎
第一章
2/8

出会い

程なくして、開店時間になった。

ずっとそわそわしていた俺にとっては、たった30分の待ち時間が3時間に思えるくらいには長く感じた。


そんな俺の期待とは裏腹に、"ショートボブの女"は開店から30分経っても、1時間経っても、2時間経っても、現れなかった。


ついに閉店まであと1時間弱。

つい、時計を見る回数が多くなる。


「風くぅん、ねぇ〜聞いてるぅ?」


隣にぴったりと座ったツインテールの女が、これでもかというくらいの上目遣いで、瞳をうるませている。


俺はハッとなって、半分上の空で聞いていた彼女の話を、脳の記憶の片隅から引っ張り出した。


「あ、ごめん。…ちゃんと聞いてたよ。新しい服、買ったんだろ?」


「えへ、そうなの!風くんが好きそぉな服だなーって。お店で一目惚れして、買っちゃったの」


女は、フリフリとしたレースのついた膝丈程のスカートをふわりと持ち上げてみせる。


「そっか。似合ってるよ、可愛い」

「えへへ〜」


女性の服はあまり詳しくないが、セクシーだとかキレイ系だとかよりは、可愛い系の方が好みだ。

ただ、フリフリのレース付スカートはちょっとやり過ぎかな、とは思うが。


「ねぇ〜風くん。お酒飲みすぎて莉穂、眠くなってきちゃったぁ」


莉穂は脱力して、俺の身体にくったりともたれかかった。莉穂の大きめのバストの感触が、腕に伝わってくる。


「ねぇ風くん、莉穂、今日この後空いてるよ〜」


アルコールのせいか、莉穂の頬はほんのり紅潮している。

莉穂のいつもの分かりやすい色仕掛けは、特に今日の俺には通用しなかった。


「莉穂ちゃん、俺、今日は───」


その時だった。


目の前を、影がゆっくりと通り過ぎた。

視線を上げると、それは女性の落とした影だった。


俺の目は、その女性に釘付けになってしまった。

通り過ぎる彼女の情報を、スローモーション再生するように視覚から取り込む。


小柄で、ピンと伸ばした背筋。

緊張しているのか、その目は少し伏し目がちだった。

服は白いニットに、花柄のロングスカート。

そして髪型は、暗色の"ショートボブ"。


俺は確信していた。

力弥が言っていたのは、この女性だ。


直感は当たっていた。

その後すぐに黒服から、場内指名が入ったことを告げられた。


莉穂に事情を説明して席を立ち、"彼女"の待つテーブルへと向かう。まるで、戦地に赴く戦士の気分だ。悪くない。


俺は"彼女"の姿を視界に捉えたまま、ゆっくりと歩いた。胸の高鳴りを、他の誰かに悟られないように。

そして、テーブルまであと2メートルというところで、"彼女"と目が合った。


その瞬間、"彼女"は勢いよく立ち上がり、


「ハヤト!!」


と言った。


それは俺の、誰にも言っていない本名だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ