天才、訓練する
すまないと思っている。だが後悔はしていない。
「…エリン様? なにか言う事は?」
「ごめんなさい。」
アリアさんこえー。まじこわい。
黒いオーラが背中から漂っているような錯覚を覚える。
その圧に負けて俺は頭を下げた。
それにしても完全に失念していた。
魔法という未知の技術に触れ、浮かれていた。
次は隠蔽までうまくやらないと…
「なんて考えてませんよねぇ?」
「え!? なんで分かって…あっ」
「…反省が足らないようですね?」
「いえいえそんな滅相もない」
アリアがじと目で俺を見ている。
「…本当ならまだ先の予定でしたが、もう、大丈夫でしょう。」
「?」
「実践訓練ですよ。」
と、いうことで俺は屋敷の修練場でアリアと向かい合っていた。
「エリン様はもう中級までは使えますね?」
「一応、かな。中級はまだ発現速度が足りてないわ」
「なるほど。 “魔法球”の速度と量は?」
「全属性1秒で30発。」
(なっ…それはもう中等部卒業レベルですよ…しかも全属性とは…)
「では、まずは”魔法球”を私に向けて撃ってきてください」
「いいの?大丈夫?」
「ええ、大丈夫ですよ。このくらいで怪我するようではメイドは務まりませんから。」
「メイドってそんな存在なの? …ま、それじゃいくわよっ…!」
この世界のメイドという存在に疑問はあるが、そんなことよりも今は訓練に集中しよう。
折角の機会だ、全力で。
俺は全属性同時に30発、アリアに向けて撃ちこんだ。
ズドドドドドドッ!!
激しい衝突音。土が捲れ、激しい土埃が舞う。
「げほっ、こほっ、み、見えない…。だ、大丈夫かな…?やりすぎたかしら…?」
「…まさかこれ程とは。流石に驚きました。」
「!? 服の乱れ一つなしかぁ… 凄いねアリア」
ヒュオッという音と共に風が舞い、土埃が晴れたかと思うと、
微動だにしないまま佇んでいるアリアが現れた。
「まさか全属性同時発現とは…。 たった一晩でここまで…?」
「ええ。 なんだか不思議なのだけれど。どうすればいいかが急に頭に浮かんだの」
「急に?」
「そう…なんだか初めから経験済み…そんな感覚。」
(やはり…天才。これ程の資質なら…あるいは)
「なるほど…とりあえず、初級魔法は問題ないですね、では続いて中級も見せていただけますか?」
「わかったわ。」
そうして、俺が魔法を撃ちこみ、アリアが受ける。
時々魔力の練りこみ方やイメージのコツなどを教わり、繰り返していく。
アリアの教え方は上手く、俺はどんどん上達していった。
そうして…2年後。
「今日はここまでにしておきましょうか。」
「はぁ…はっ…ん…ありがとうございました…」
俺は超級魔法まで習得、魔法の発現時間も1秒を切った。
魔法を使い、身体強化も使いながらの近接戦闘も教わった。
アリアも攻撃をしてくるようになり、戦闘はどんどん激しさを増していく。
だが相当強くなった気はするのに、アリアには未だに一回も攻撃を当てれていない。
アリアさん、強すぎない?
「そういえばエリン様、いよいよ来年は学園受験ですね」
「あぁ…そういえばもうその時期ね」
「エリン様なら世界最高峰といわれるスフィア王立学園でも、受かる事間違いなし、ですね♪」
「ええ…まぁそれはそうね」
「…エリン様? お顔色が優れないようですが…。」
学園…学校、か。
俺は生前、日本での事を、思い出していた。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
感想、評価、お待ちしております。