天才の異常性
侍女アリア視点です。
エリン様は異常だ。
エリン様は手のかからない方だった。夜泣きは一切せず、泣くのは決まってお腹がすいているか、排泄の処理の時だけ。おむつを替えているときにじっ…とこちらを観察しているような雰囲気すらあった。
5カ月の頃にスッと立ち上がり歩き始めた時には驚いた。更に、あたかも身体の感覚を確かめるかのようにストレッチのような動きまでしだしたのだ。
まぁ、さすがに難しかったらしくころころと転がっていたが。
エリン様が1歳になると、部屋からよくいなくなるようになった。
最初はそれはもう焦ったが、その時は決まって当主様の書斎に入り込み、本を読んでいるのだ。
しかも地理や歴史、魔術書のような幼児には到底理解できるはずのないものばかり。
ちょっと意地悪してやろうと問題をいくつか出してみると、さも当然かのように答えられ、鼻で笑われた時はちょっとイラッとした。
そして…エリン様はわがままだ。
一度決めたら梃子でも動かない。例えば、私達使用人が一緒に食事をとらない事が不思議だったらしく、質問されたことがあった。
「使用人が主人の方達と食事を共にするのは失礼に当たるのですよ。」
と教えたが納得できなかったらしく、当主様に文句を言っていた。
1週間も言い続け、しかもその説得の仕方が作業コストがー、とかコミュニケーションの場を設ける事が使用人のモチベーションにー、とかやたらと具体的かつ理路整然としているのだ。
遂には当主様も根負けしたらしく、今では食事は屋敷の全員でとる事になっている。
満足そうに食事の席でふんぞり返っているエリン様をみて、使用人全員がほっこりとしたものだ。
あと、私が野暮用で3日程屋敷を離れないといけない事があった。
エリン様にその旨を伝えると、私が離れる事で他の方の負担が増えるだの、他に代役を、ギルドに依頼を、云々と仰っていたが、
「私と離れるのが嫌なのですか?」
と言うと、顔を真っ赤にして口元をもにょもにょとさせていた。
面白くて眺めていると、
「さっさといってこい!この馬鹿!」
と怒られてしまった。
あー可愛い。
そう、エリン様は異常にかわいいのだ。
そして…この方はきっとなにか素晴らしい事を成し遂げるに違いない。
当主様もエリン様の才能を認め、異例の早さではあるが私に魔法の講師の命をだされた。
「さて、それでは授業をはじめます。」
「ん。」
目を輝かせてこちらを見るエリン様。
うん。エリン様は今日もかわいい。
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