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第5話

「・・・そんな顔しないで下さい、ギル・・・。確かに人道的な処置ではありませんが、姉はその事は承知ですよ。仕方がないんです。姉は、国の宝と同時に国に争いを引き起こす種とも言える存在ですから・・・。父上としては、一刻も早く姉上の相手を決めて嫁がせたいと思っているのでしょう。」


「そうなのか・・・大変だな。しかし、何故彼女はお前と一緒に此処へ来てるんだ?学校に通う訳でもあるまい?」


「理由はいくつかあるんですけどね・・まあ、一番最大の理由は近じかこのリザル近くの商業都市モロッコスで内密に近隣諸国の王族や貴族、豪商達を集めた競りが行われます。姉は・・・その競りにかけられるんですよ。」


「・・嘘だろ?いくら何でもそれはっ?」

セルムはじっとギルロイの黒い瞳を見つめて言った。「本当の事です。競りで一番高い値段を付けたものが姉を手に入れる。それが一国の王だろうが、貴族だろうが、商人でも。でも王族なんて皆同じ様なものでしょう?自分が望んだ相手と結ばれる様な者は本当に一握りしかいませんよ?私もいずれは国の為に意に添わない相手と結婚することになるでしょう。

貴方は・・・どうなんです?ギル・・・?」


「俺は・・・」確かにセルムの言う通りだ。この世界において王族や貴族達が自分の望んだ相手と結ばれる事はほとんど無いに等しい。実際、自分の母親でさえ、顔も見た事のない男の元へ嫁いで来たのだ。大量の持参金を持って。幸い、自分の母は父を愛し、王妃の座にありながら、他の側室らとも上手くやっているが、ほとんどの王室の裏の顔はドロドロしたものだと聞く。

確かに非人道的だといくら叫んだところで現実が覆される訳ではない。

自分もつい先頃それを身にしみて感じたばかりではなかったのか・・・・。


「確かに・・・お前の言う通りだな。俺がどうこう言える立場ではない。俺もいつかは、妃を娶らなければならない。実際今でも婚約だの何だのとうるさい所だがな・・」そういって俺は薄く笑った。


「そうですね・・・私も姉が出来るだけ良い人と巡り合うことを祈るのみですよ。そう、貴方のような人になら安心して姉を任せることができるんですけどね・・・・?」


俺はぎょっとしてセルムの彫像のように整った顔を仰いだ。


「冗談・・ですよ。さて、少しゆっくりしすぎましたね。従者に荷物を持って行かせるので、寮まで案内していただけますか?」

そう、その為にここへ来たのだ。だが、最後に呟いたセルムの一言が俺の心の中で渦巻いていた。俺が・・・あの女を娶る・・?ばかばかしい、確かにレイモンドが話していた通り、一瞬かいま見たロザリア王女は息を飲むほど美しかった。だが・・・それだけだ!俺は雑念を振り払うように立つとセルムと従者を手伝って学院の寮へと戻った。


「此処が俺たちが3年間一緒に住まう部屋だ・・しかしセルム、従者は一緒でなくて良いのか?大概の王族は従者を連れて来ている奴が多いが。」


ちらりと荷物を運び入れる従者の方を見ると笑いながらセルムが言う。「貴方も一人で来られてるではありませんか・・。私は一人の方が気楽ですし、それに・・いえ、こうして貴方と同じ部屋になれたのですからこれからが楽しみですよ。」


「俺も、楽しみだ。これから宜しくな、セルム。」

「こちらこそ・・・ギル。」そういってセルムは静かに目を伏せた。その時俺はセルムが言葉に含んでいた意味に気付く事は無かった。短く礼をすると、従者は一人ホテルへと戻っていった。

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