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第4話

「お帰りなさいませ、王子・・・そちらの方は・・・?」

部屋の前で従者らしき男が近寄ってきてうさんくさげにこちらを見ながら聞いて来た。

「これから3年間、私と同室になるアステール王国のギルロイ王子だ、失礼のない様に・・」

セルムはその男を静かに諭した。慌てて男が頭を下げる。

「申し訳ございません、私めはこのリザル滞在中セルム王子とロザリア王女の世話をしているオルキと申します。以後お見知り起きを・・・」


「いや、、気にしないでくれ。ここにいる間は王子だろうが王女だろうが、一人の学生と変わりはない。」

セルムはこちらを紫の瞳でじっと見つめると笑って言った。「・・・あなたとは本当に気があいそうですよ、ギル・・・あなたが私のルームメイトで本当に良かったと思っています。スミルナの神に感謝しなければ・・。それにしても、こんな所で立ち話は何ですから、どうぞ、部屋に入って下さい。」

俺はセルムの後について部屋に入った。なかなか快適そうな広い部屋だった。応接間と幾つかの部屋がくっついている。

「へえ・・リザルにこんな洒落た所があるとは知らなかったな。」


「最近では、高級感を出した民宿をホテルと呼んで一般と隔離しているそうですよ。私もこちらに来るまではまったく知りませんでしたが・・・」


「ホテルねえ・・」俺は部屋をぐるりと見渡す。さすがに王宮と同じ・・・とは行かないものの、確かに素晴らしい調度品があつらえてあった。先ほどの従者が2客の繊細な模様の施されたカップにお茶をついででていく。一口飲んで見ると、ほんのりと甘い香りが口の中に広がった。

「これは、スミルナの特産の一つである、ウヴァという茶です。おいしいでしょう?」

「ああ、なかなかいける・・・」


その時、奥へと続く部屋の一つがギィと音を立てて開いた。聞こえて来たのは鈴を転がす様な声だった。

「セルム・・帰って来たのですか・・?」

「姉上・・・」

俺は一瞬何かに取り憑かれたかのように扉にしなだれかかる彼女を凝視した。目を見張る・・・そういった言葉が正しいのか・・部屋着なのか、身体のラインがわかる薄めの布を巻き付けた肢体にそそられる。身体を覆うように見事な黒緑の髪が足下まで流れている。それよりも何よりも一瞬俺を見据えたその瞳・・セルムのそれよりも濃い紫の一対、陶磁器の様な肌と整った鼻、そして小さく開かれた桜色の唇、言葉を失ってしばしの間その人に見とれていた。

「・・だれ?」はっとしたように彼女は扉を閉めた。


「すみません、姉上は人見知りなのです。許してやって下さい。」

俺はなおも閉められた扉のその向こうに意識を傾けていた。あれが、レイモンドの話していたロザリア王女?たしか22歳だと・・・いやでもあれが?どう見ても少女のようだった。ちらとかいま見たその肢体は確かに成熟していたが・・・カッと身体が熱くなるのが自分でもわかった。

俺の様子を見ていたセルムが訝しげに声をかけた。


「ギル・・・?どうしたのですか?」

俺は一生懸命自分を抑えながらゆっくりと答える。「すまん、何でも無い・・・」

しばらく何も言わずに俺の方をじっと見ていたセルムだったが少し小さく笑って言った。

「姉上は美しいでしょう・・・?あの方は私の唯一の同腹の姉なのです。我がスミルナの宝と呼ばれていますが・・・」そういってセルムは一口お茶をすする。そして意味ありげに言葉を続けた。「どなたがあの人を買い取る事になるのでしょうね・・・。」


「買い取る?」穏やかではない物言いに驚いて聞き返す。仮にも一国の王女を買い取るとはどういった了見なのか・・。

「・・・そのままの意味ですよ。スミルナの王、つまり私の父上には100人にも及ぶ妾がいます。私たち兄妹はそんな大勢の妾の中の一人、王に最も寵愛を受けた姫から生まれたのです。スミルナは代々、国の有力な貴族や諸国に、自分の娘や息子を差し出して大きくなった国です。

姉上は、世間一般ではもちろん婚期をとっくにこしていますが、それでも、姉を欲しがる男が後を絶たなくて、国では死闘を繰り広げる始末・・・。

父上は密かに幾つかの大国に書状を出して、一番高く彼女を買ってくれる相手に姉を差し出す魂胆なのですよ・・・。」

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