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第10話

「お前は・・・カルファの手のものでは無いのか?」戸惑ったように彼女が問う。

「カルファ?誰だそれ?」このお姫様は一体何を勘違いしているのか・・。2、3本先の路地でひと際大きな喘ぎ声が上がり、それを耳にしたロザリアは耳まで赤くしてギルロイに言った。

「・・私の間違いだったかもしれません、ともかくどいて下さい!」

耳まで赤く染めた彼女をからかうように、俺はかがんで彼女の耳元に口を寄せて口づけながら言った。「逃げないと誓うなら離しても良いが・・?」

耳に軽く口づけされたロザリアは真っ赤になってギルロイを蹴り上げた。

「いってぇ・・」しぶしぶ手を離したギルロイから彼女は数歩後ろに後ずさると怒って言った。

「何するんです!やっぱりあなた、カルファが取引を行ったという男なのですか?!」


「嫌・・だから俺はカルファなんて男は知らないし、ここに来たのはたまたま風に飛ばされた学生証を追いかけて来たまでの事だ。」そういって俺は首に下げた学生証をふらふらさせて彼女に見せる。まだ納得していなさそうだったが、俺が学生証を差し出すとそれをおずおずと手に取ってみた。

学生証を見たロザリアは呟いた。「あなた・・・まさかアステールの・・?」

「へえ?おれの事知ってんの?男嫌いのお姫様が知っている他の大陸まで聞こえる俺の噂はどんなものなのか是非教えてもらいたいね?」

アステールは父上が私の嫁ぎ先として白羽の矢を立てた大国の一つだった。アステールがもつ様々な技術や知識を取り込みたいというのが真の目的だったようだが、アステールの王子は長男の第一王位継承者のギルロイ王子が確かまだ15〜16歳という事で年が離れすぎているため断られたと父上が言っていた。私も7つも年下の子供に嫁ぐつもりは毛頭なかったし、見合い用の絵姿さえも見てはいなかった。そうか、この男がアステールのギルロイ王子・・年下とは思えないぐらいの精悍な体つきをしている。低く落ち着いた声が耳に心地よかった。弟と同じぐらい・・?そしてはたと気がついた。そうだ、この黒い瞳の男は・・・


「別に・・・噂なんてされていないわ。間違えてナイフを突きつけてしまった事は謝ります。そういえば、あなた、先日セルムと一緒に居た・・・?」

「ああ、セルムと同室のギルロイだ。覚えているだろう?」一瞬だけだったがと心の中で付け足す。

「セルムと同室・・あなたが?そう・・。じゃあ本当に関係のない人だったのね、ごめんなさい。」彼女は真摯に謝る。

「それより、何故こんな路地裏に居たのか話を聞かせてもらえないか?」

ロザリアは少し考えるように黙ったがやがて口を開いた。

「あなたが来たときに、うちの従者と逢わなかったかしら?彼がカリファよ。彼はお父様の言いつけで私が何処かに嫁ぐまでの世話を任されて一緒にきたのだけど・・・私の侍女があの男が今晩誰かに私を襲わせて既成事実を作ろうとしているという話を聞いたらしくて、こっそりと逃がしてくれたの。だけど、追っ手がかかって逃げ回っているうちに知らない所まで出てしまって・・あなたの事をカルファが雇った追っ手だと思ったのよ、ごめんなさいね。」


「なるほど・・それで」偶然とは言え、事情を知ってしまったら彼女を一人ほっとく訳にはいかない。俺は少し考えてから静かに言った。

「それなら、俺たちの寮に来ないか?セルムも居る事だし、俺は友達の部屋で休ませてもらうから。」

ロザリアは吃驚したようにギルロイを見つめ、そして言った。「見ず知らずのあなたに迷惑をかける事はできません。でもあなたのご好意は受け取っておきます。」

ギルロイは呆れたようにロザリアに向かって言った。「無理すんなよ。どうせ着の身着のままでてきて行く宛も無いんだろ?暫くの間俺が上手くごまかしておいてやるから、とりあえず来いよ。」そう言ってロザリアの手を引っ張り胸の中へ抱き込んだ。

突然の出来事にロザリアの心臓は激しく波打つ。いつもは知らない男性に触れられるとじんましんが出る程嫌な思いをするのだが、何故かギルロイの胸の中は安心できた。


「は、離して下さい!わかりました。あなたのお言葉に甘えます。それにセルムに会えるなら、あの子が今回の件に関して何とかしてくれるでしょうから・・」

「じゃあ決まりだな!」そういってギルロイはロザリアに向かって微笑みかけた。

人目を避けつつ、二人は連れ立って寮への道を急いだ。幸い追っては二人に気がつかなかったのか、無事に寮まで辿り着いた。本来、男子寮は女子禁制である。

だが、ギルロイは初日に悪友の一人から手に入れた裏口の合鍵を使って密かにロザリアを自分達の部屋へと招き入れた。

「やあ、ギル、遅かったね!先ほどレイモンドが君の鞄を届けに・・・」戸を開けて入って来た俺と黒ずくめのフードをかぶった侵入者にセルムは言葉を濁した。

部屋へ入り、フードを取った彼女の姿をみて彼は唖然と呟いた。「姉さん・・・」

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