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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第2章 共生のススメ
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3.ある家族のかたち⑥ リアムは必死に主張した。

 理解は取りこぼしたまま顔だけを上げると、父はいつもの無感動な目で、リアムを見下ろしていた。


「訓練校の登録情報によると、君には妹などいないはずだが」

「な、なに言ってるんだよ父さ――」

「この手紙の意味はよく分からないが」


 『父さん』という単語をかき消すように、父が言葉をかぶせてくる。


「もしサンタクロースが万が一にも存在して、君が誰かしらの拉致をお願いしたならば、その者の命が危ういな」

「え?」

「サンタクロースはプレゼントを与えてくれる反面、さらった子どもはトナカイの餌にするらしいからな。さらわれた者は、世界の記憶からも消えるといわれている」

「世界の……記憶?」

「つまりは、(みな)に忘れられるということだ。まあ無論、サンタクロースなど存在しないが」


 告げる父の顔は、至って真面目だ。


(ど、どういうこと? なんで父さん、セルウィリアのこと知らないって言うの?)


 学長ともあろう者が、忘れたふりなどという悪ふざけをするはずがない。ということは、


(本当に忘れてる? それってつまり……)


 リアムの顔は、さっき以上に(そう)(はく)になった。


(もしかして、サンタがセルウィリアを持っていっちゃった……?)

「そ、それじゃあセルウィリアはトナカイにっ……」

「いもしない妹を、いもしないサンタクロースのことで心配するなど、君は相当錯乱しているようだな」


 父はリアムの言葉に耳を貸さないばかりか、リアムが混乱でおかしくなったと思い込んでいるようだった(そうであるならば、もう少し心配してくれてもいいような気はするけれど)。

 つまらないものを眺めるようなまなざしにあらがうように、リアムは必死に主張した。


「い、妹は……セルウィリアは本当にいます!」

(たわ)(ごと)に付き合うほど私は暇ではない――しかしまあ、それほど心配なら、母親に確認でもしてみればいい。ちょうど今、面会に来ているのだろう?」

「っ……あの、僕……失礼します!」


 リアムは反転して駆けだした。大事なことを確かめるために。


(もし、もし僕のせいでセルウィリアがさらわれちゃったなら……)


 そんなはずない。

 サンタはいない。いたとしても、冗談交じりに書いた手紙を、サンタが真に受けるわけがない。

 今走ってきた道は、こんなに距離があっただろうか。気持ちに足が追いつかず、リアムはつんのめるようにして足を動かした。

 もどかしさにいら立ちながら、ようやく談話室へとたどり着く。


「母さん!」


 再び騒がしく扉を()けると、リアムは母の元へと駆け寄った。

 母は電話中のようだった。携帯電話を耳に当て、こう話すのが聞こえてきた。


「――タ? セルウィリア? さあ、知らないわね」


 ぐわんと、殴られたような衝撃を頭に受ける。


「それじゃあまた。リアムが戻ってきたみたいだから」


 母は電話を切ると、


「早かったわね、リアム」


 いつものように、リアムの大好きな笑みを浮かべた。


「あのね、今お父さんが――」

「ごめんなさい!」


 母の言葉を遮り、リアムは叫んだ。

 周囲の注意を引いて、仲間から小馬鹿にするような視線を向けられるのにも構わず、目に涙を浮かべて続ける。


「ごめんなさい、ごめんなさい」


 母の顔がまともに見られない。下を向いて、ひたすら謝り続ける。


「あらあら、どうしたの」


 優しく頭に置かれた手が、余計につらさをかき立てる。


「ごめんなさい、ごめんなさい」


 それしか言えず、リアムはただただ謝り続けた。


◇ ◇ ◇

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