表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第2章 共生のススメ
90/389

2.不干渉の境界線⑦ こっちは真剣なんだけど。

◇ ◇ ◇


 目的の家には、5分ほど歩けばたどり着けた。

 没個性な建売住宅が立ち並ぶ中、おしゃれな洋館(ただし小さめ)をイメージした造りの家がたたずんでいる。

 リュートたちは、道を挟んだ砂利敷きの(つき)(ぎめ)駐車場で、その家を見張っていた。メールで知らせを受けたテスターも、こちらへと向かっているはずだ。

 先ほど勇人にインターホンを鳴らしてもらったが、反応はなかった。近所の子どもに対しても居留守を使うような家でなければ、家族全員不在ということだ。


「疑うわけじゃねーけど、本当にここなんだよな?」


 車の陰に身を隠しながら、問う。


「うん。名前は知らないけど、あの家の人だよ」


 勇人の自信たっぷりの返事に満足し、リュートは大きくうなずいた。


「よし助かった。ありがとな」


 勇人の肩に手を置き、やんわり押しやるように力を込める。勇人はそれをじとっと眺めると、同じ視線をリュートの顔へと向けてきた。


「なんだよこの手は」

「だから、助かった。もう帰っていいぜ。セラが送ってくれるから」


 勝手に指名されたセラが、顔に不服の色を浮かべる。

 が、不満を言葉に表したのは勇人の方が先だった。肩を怒らせながらリュートの手をはねのけて、


「なんだよそれ! 一番おいしいところは取り上げるのか⁉」

「おいしいって……こっちは真剣なんだけど」


 まあ部外者――加えて子どもの認識など、その程度なのだろうが。


「なら、ますます僕が手伝った方がいいじゃんか!」


 渋面を作るリュートに、勇人が必死に食らいつく。


「僕ならもし見られても、近所の子どもが遊んでると思われるだけだろっ」

「だからそういう問題じゃ――」

「いいじゃない、手伝ってもらいましょうよ」


 リュートは目をむき、声の(ぬし)の顔を見た。

 こいつはなにを言っているんだ。

 そんな思いを込めて見据えられても、セラは全く動じなかった。むしろ、兄こそなにを言っているんだとばかりに片眉を上げ、


「私たちがびくびく車の陰から顔をのぞかせるより、道端で遊んでるふりでもしながら、勇人君に見張ってもらった方が無難じゃない? もちろん事故が起きないよう配慮し、暗くなる前に、自宅まできちんと送り届ける前提だけど」

「いや、そういう問題じゃ――」

「地球人の子どもに手伝わせるのが問題って言いたいのかもだけど、正直、ここまで付き合ってもらったなら同じよ」


 リュートは口を閉じた。ギリギリ取り繕っていた建前を、身も蓋もなく投げ出されたら反論のしようもない。加えて、


「それともお兄ちゃんは、不祥事が学長にバレて、きっっつい処分を下されるのがお好み?」


 ()(ぎゃく)的な笑み――ああ確かにこいつは学長(あいつ)(むすめ)だなと、再認識できるほど学長(あいつ)(ほう)彿(ふつ)とさせる笑み――で意地悪な言葉を吐かれたら、保身に走るしかないではないか。


「……分かったよ」


 不承不承にうなずくと、勇人が歓声を上げて、車の陰から飛び出した。


「じゃあ早速、僕行ってくる。トシュクニンムに!」

「特殊任務な。特殊でも任務でもねーけど」


 聞こえてないだろうが、一応訂正を入れておく。

 と、思い出し、小さな背中に向かって声をかける。今度は聞こえるよう、手を口に当ててはっきりと。


「車気をつけろよー、あと通行人の邪魔にならないようにな」

「言われなくても分かってる! シモベが命令するなっ」

「心配してやってんだろーが」


 堂々とやり取りしてたら隠れている意味がないので、ひとりで愚痴る。

 そのさまをくすくす笑って見ていたセラが、仕切り直しとばかりに息をつき、聞いてくる。


「それでお兄ちゃん。教科書の受け取りはいつ行くの?」

「取りあえずは、テスターがこっち来てからだな。そっから(じゅ)(りょう)と見張りの二手に分かれ……ん?」


 飛び出した時と同じく、足をばたばた動かして勇人が駆けてくる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ