表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第1章 神苑の守護騎士
8/389

1.守護騎士来校⑧ なんだってそれが、俺の任務初日で起こるんだよっ……

「――なにっ⁉」


 あり得ない。

 動揺に支配され、反射的に後ろを振り向く。そして、


「ぐあぁっ⁉」


 視認よりも先に、なにかに右肩を強打された。

 衝撃と同時、顔面から液体を浴びる。

 リュート自身の血である。痛みのせいで集中が途切れ、血の(やいば)が液体へと戻ったのだ。


 続けざまに浮遊感。受け身も取れないほどの勢いで後方に飛ばされ、床にたたきつけられる。


「っ……!」


 打たれた右肩を地面に打ちつけ、確かに一瞬意識が飛んだ。

 無理やりに活を入れ、左腕を支えに身を起こす。()(けん)は殴打された時に落としたらしく、手にはなにも握っていない。


 制服の袖で血まみれの顔を乱暴に拭い、リュートは目を細めて焦点を絞った。


(馬鹿な……()(しん)が、もう1体、だと……?)


 信じられない光景だった。

 ()(しん)は次元を(わい)(きょく)させ、生じた世界の(はざ)()から(げん)(しゅつ)する。が、その(かん)に他の()(しん)が同じ空間に(げん)(しゅつ)することはまずない。


 確率的な問題もあるが、そもそもゆがんだ次元をさらにずらして(げん)(しゅつ)すること自体が、向こうからでは不可能に近いのだ。記録上は、世界で数件の二重(げん)(しゅつ)が報告されているから、絶無というわけではないが……


(なんだってそれが、俺の任務初日で起こるんだよっ……)


 愚痴りかけたところで、はっとする。今さっき(げん)(しゅつ)した()(しん)が、リュートに第二撃を加えるべく突進してきていた。


「ちっ!」


 リュートは腰の後ろから、ダガータイプの()(けん)を引き抜いた。カートリッジを挿し込み新たな(やいば)を創り出すと、それを左手に持ち替える。


 巨大な拳を横跳びでかわし、()(しん)の背後に回り込む。そのまま無防備な背中に剣を振り下ろそうとするが。


「……っ!」


 狙ったかのように、最初に(げん)(しゅつ)した()(しん)が殴りかかってきた。

 仕方なく回避にまわるリュート。まさか意図しての連携ではないだろうが。


(くそ、厄介だな)


 リュートは大きく後ろに跳び、()(しん)たちから距離を取った。

 彼らには空間の制限がないが、こちらは廊下という狭い空間で動き回らなければならない。


(さっさと1体片付けるしかねーか)


 観念して駆けだし、自ら()けた距離を再び詰める。

 まずは負傷している方の()(しん)だ。右脇からへその辺りまで、ぱっくりと裂けている。それでもなんの支障もなく動いているが、もう一撃入れればさすがに消えるだろう。


 リュートは()(しん)の腹に狙いをつけて斬り込んでいった。そうはさせじと、()(しん)が壁に追い込むようにして、右から爪を振るってくる。横に()けるには壁が近過ぎた。


 ダンッと驚くほどに大きな音が鳴る。

 足裏を床に打ちつけ、リュートは身体(からだ)を折り曲げ半ば強引に、斜め後ろへと飛びのいた。そして着地の瞬間床を蹴り、逆再生のように前へと飛び出す。


 リュートに釣られて半身を出していた()(しん)は、脇腹ががら()きだった。対してこちらは急激な移動で、体勢が崩れかけている。


 立て直す時間を犠牲にし、リュートは飛び込むようにして()(しん)の右側へと回り込んだ。

 先ほどの裂傷をたどるように、ほとんど根元まで()を食いこませながら、白い肌に延長線を引いていく。


「…………っ」


 添えた右腕に負荷がかかり、刺激された痛覚で集中が阻害される。

 それでもなんとか血の(やいば)を維持し、リュートは力任せに()(けん)を振り切った。


 右脚を切断するほどの深度はなかったが、それでもその傷は、()(しん)を世界から拒絶するのには事足りたようだ。悲鳴を上げることもなく、()(しん)が世界から消失する。


「あと1体っ」


 廊下に倒れ込みながら、リュートは顔を上げてもう1体の姿を探した。そして、


「げっ」


 膝を突き、絶望的なうめき声を上げる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ