表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第1章 神苑の守護騎士
60/389

6.守護騎士失格⑥ 『尊く、高貴』な女神様。

◇ ◇ ◇


「女神様、彼女の子どもたちです。彼女が適合したなら、この子たちも適合の可能性は高いかと」


 後ろで、父がよく分からないことを言う。

 リアムは隣を見た。あどけない顔で、3歳の妹がこちらをじっと見上げている。なにが起きているのか分かっていないようだ。説明してあげたかったが、まだ8歳のリアム自身、状況をよく理解できていなかった。


「妹だ。兄の方は、いずれ別の役割を担ってもらう……早く、時間がない。この女はもう()いきってしまう……昔取り込んだ()(しん)の魂が、暴れて……」


 苦しそうな女の声。決して大きくはないのに他のどんな音よりも、耳に、頭にはっきりと届く。

 それは母だった。だが今は母ではなく、『尊く、高貴』な女神様。触り心地の良さそうな白いワンピースに身を包み、豪華な椅子に腰掛けている。

 女神はリアムたちが『仕える』べき存在。この(しん)(しつ)(あるじ)。絶対的に『正しい』存在。


 だがリアムはそんな『女神様』に、例えようのない恐怖を感じていた。

 いつも優しげだった母の目は、今は氷のような冷たさでもって、こちらに視線を注いでいる。リアムたち(しん)(ぼく)が息をすることの是非すら、己が決めるのだという堅固な意思を感じるほどに。


 母の姿をした女神は、続きを話そうとしたのか、口を(ひら)きかけ――突然リアムの目の前で、その身体(からだ)をはじけさせた。


「母さん⁉」


 あまりにあっけなくて、母は完全に消えたのだと最初は理解できなかった。


「小娘……貴様の命もらい受けるぞ」


 どこからともなく響く女神の声に、心が震える。妹が泣きだし、腕を引っ張ってきた。

「お兄ちゃ――」


 ぶつぎりに妹が黙る。その目から、顔から、見る見るうちに感情が消えていく。

 リアムは直感した。妹は、母と同じになるのだと。

 母と同じように消えるのだと。

 今度は妹がいなくなってしまう。


「や……やめろぉっ!」


 泣き声を上げながら、リアムは妹に体当たりをかけた。壁に頭を打ちつけ、倒れる妹。


「貴様、邪魔をするのか……また、邪魔をするのか!」


 いまいましげな、何百年来の憎悪を込めたような声が頭に響く――いや。

 頭の中()()響いている?


「意識がない者には同化に入れない……不本意だが、貴様で手を打とう」


 リアムは叫んだ。頭の中から響く声を、かき消すかのように。


「――っ! ――っ!」


 目を閉じてもいないのに、視界が闇に染まっていく。

 消えていく。自分というものが消えていく……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ