表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第1章 神苑の守護騎士
56/389

6.守護騎士失格② 俺たちはただ、そう在る者として生まれたんだ。

「やっぱり私のこと、報告とかするんだよね? 私どうなるの? 実験対象とかにされちゃうのかなぁ」


 同じようなことをリュートが聞いて、セラが困っていたのを思い出す。

 今度はリュートがその立場になり、やはり言葉を濁すしかなかった。


「……実験はともかく、保護はされるかもな。()(しょく)体質ってことだろ? 単純に危ない」


 言いながら、『明美の安全』という理由を免罪符に使う自分に嫌悪感を覚える。

 (しん)(ぼく)は、地球人個人の事情など気にも()めていない。ただ女神の魂をもつから必死に(まも)っているだけだ。それは見返りを求めない無償の奉仕なのかもしれないが、結局は(しん)(ぼく)の都合で、勝手に(まも)っているだけともいえる。

 一方的な主張の押しつけという意味では、過激な排斥派も(しん)(ぼく)も、大して変わらないのかもしれない。


「そっか」


 リュートの葛藤を知ってか知らずか、明美は短くうなずくにとどまった。なにを考えているのか、その表情からは読み取れない。


(この感じだと、須藤が意図的に()(しん)を呼んでいるわけではなさそうだな……あとは須藤の体質が、()(しん)を呼び寄せているのかどうかだが……)


 その可能性について、明美は思いついてもいないようだ。なら安易に聞いて、怖がらせたくはない。


(やっぱ一度、須藤のこと報告した方がいいのか?……っ!)


 胸がうずく。収まりかけてはやってくる、突き刺すような痛み。

 あれほどの体液を浴びたのだ。リュート自身、早いところ訓練校に戻って診てもらった方がいいかもしれない。効果的な治療ができなくとも、なにかしらの対処はしてもらえるだろう。


「ねえ天城君」

「ん?」


 また自分のせいだと心配されてはかなわない。リュートは極力平静を装って聞き返した。


「天城君たちは、どうしてそう、無条件に私たちを(まも)れるの? 生まれる前に、勝手に決まった義務なんかのために」


 それは純粋で単純な問いだった。単純過ぎて悲しくなるほどの。

 リュートは明美の視線を受け流すようにして、天井の一点だけを見据えて答えた。


「俺たちは、そういう役割をもった存在だから。権利だとか義務だとかは関係ない。俺たちはただ、そう()る者として生まれたんだ」


 何度も自分に言い聞かせてきた言葉を、ここでもまた反復する。そうしていけば、いずれ本当の言葉になる。


「でもだからといって、天城君が割を食うこともないんじゃない? 生まれた時から人生が決まってるなんて……理屈では分かっていても、なんかそれって悔しくない?」

「それが現実だ」


 よどむことなく言い切ると。


「……っはぁー」


 明美が大きく伸びをし、息を吐いた。感嘆するように。


「天城君って達観してるよね。同い年とは思えない」

「まあ実際年上だしな」

「え?」


 伸びをした体勢のまま、明美が目を丸くしてこちらを見てくる。

 それが無性におかしく感じ、リュートは笑みを返して続けた。


「俺はこう見えて、もうすぐ20歳(はたち)になるんだよ。5年ほど――まあトラブルがあって、身体(からだ)の成長が遅れてる。これまたいろいろ事情があって、公式には今年で15ってことになってるけどな」

「そ、そうなんだ」


 いまだ目を丸くしたままの明美。

 余計なことを話したかもしれない。正直痛みのせいで、細かな配慮が抜けてしまっていた。


「――さて。悪いけど、一緒にセラを捜してもらえるか? あいつ本当どこにいるんだか。俺がばっちりクロスボウ(試作品)を使いこなした話、聞かせてやらないと」


 リュートはうそぶいて机から腰を上げた。そのまま教室を出ていこうと歩きだし――


「そうか。貴様、あの時の子どもか」

「――っ⁉」


 突如として膨らむ気配に、呼吸が止まる。

 声は明美のままだが、その物言い、その言葉……

 明らかに明美とは違っていた。圧倒的な存在感、のみ込まれてしまいそうな感覚……

 リュートはかすれた声でつぶやいた。


「お前、まさか……」


 恐る恐る振り向き、確かめる。そこにいるのは明美なのか。それとも――


「久しいな。貴様ごときに、あそこまで手こずらされるとは思わなかったぞ」

「――女神、なのか……?」


 問いに対する返答はない。

 しかし机上で足を組み、リュートに向けるその不遜な笑みを見れば、答えなど不要であった。


◇ ◇ ◇

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ