表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第1章 神苑の守護騎士
50/389

5.自民族中心主義⑧ 頑張ってなんとかして。

◇ ◇ ◇


「君主に(やいば)を向けるは騎士の恥。だがしかし、私は姫をあ……愛してしまった。己の首を差し出すことはいとわない。だが、姫だけは、この命に代えても(まも)ってみせる……」

「天城くーん、もうちょっとなんとかならないかな? ぎこちないよ」

(なるかよこんな歯の浮くような台詞(せりふ)。寒過ぎんだろ!)


 左手の台本を床にたたきつけ、右手の剣を投げ捨てる――という衝動的行為を、なんとか脳内シミュレーションだけにとどめ込む。

 ふたつの多目的室を隔てる可動式の壁。それを取り払って、ひとつにつなげた大部屋で。

 机を後ろに集めて生み出した空間を使い、リュートは立ち稽古を(半強制的に)行っていた。

 といっても、今さっき配役された状態でろくに演じられるわけもなく、台本(ほん)読みしながら漠然と動いているだけだ。


「もうちょっとこう……硬派で真摯な感じで。それじゃあ下手くそな結婚詐欺師みたいだよ」


 舞台スペースの外からチェックを入れてくる江山に、リュートは言葉を濁しながらも食い下がる。


「でも俺はその、こーいうのはちょっと……」

「なによ、天城君だって騎士じゃない。守・護・騎・士。同じ騎士として、シンクロするものがあるでしょーに」

「それは日本のマスメディアが作った造語で、日本だけの呼称だ。世界的にはガーディアン――騎士なんて一言も出てこないぜ」

「かもしれないけど、助演出の角崎さんと協力してせっかく作った役なんだから。協力してよね」


 リュートは同じ舞台上にいる、敵兵士D兼助演出の(りん)を、ぎんっとにらみやった。彼女は公開処刑中のリュートを、心から楽しそうに見ている。


「まあいいや、急に決まったしね。練習して、明日(あした)には台詞(せりふ)も覚えてきてね。じゃ次。殺陣(たて)のシーンやってみようか」


 切り替え早く仕切っていく江山に、リュートはほっと息をついた。

 取りあえずこの場はしのげたらしい。ページをめくり、段取りを目で追う。


殺陣(たて)なら打ち合わせ通り動くだけだもんな。こっちの方が楽だ)

「じゃ、みんな。天城君を襲って」

「ちょ、ちょっと待てっ」


 慌てて制止をかける。台本のト書きを指さしながら、


「ここ、数人の兵士に襲われるってあるけど、どう襲われるか書いてないぜ」

「んー。適当かな」

「は?」


 江山が困ったように顔を傾ける。


「だから、その時その時で、適当に襲うから。頑張ってなんとかして。そっちの方がリアルでしょ?」

()(ちゃ)言うなよ! 間違って地球人に()()でもさせちまったらやばいんだよっ!」

「そこがいいのよ。いい? 騎士は姫を(まも)るために味方を裏切ったけど、かつての仲間と戦いたくはない。少しも傷つけずにその場を乗り切ろうとするの」

「いや無理だろそこは割り切れよ騎士!」

「これも角崎さんの案なんだ。リアリティーあるよね♪」


 ぎんっと再び(りん)をにらむ。

 彼女は目立たないようにしながら、笑って中指を立てていた。侮辱的な意味をもつ仕草に違いない。


(あいつのクズっぷり、言い触らしてやろうか……)

「ちょっと天城君っ、ぼけっとしないでほらいくよ!」

(なんで俺がこんな目に……)


 議論しても勝てそうにないので、リュートは仕方なく、江山へと了承のまなざしを送った。(りん)には取りあえず、心の中で中指を立てておいた。


「はい、じゃあ始めるよー。みんな遠慮なく天城君を襲って」


 江山の(容赦ない)合図で、舞台上の敵兵士A~Dが小道具の剣を手に襲ってくる。

 リュートも同じ剣を片手に、腰を落として迎え撃つ体勢を取った。玩具(おもちゃ)の剣は()(けん)よりも長さがあったが、それに反して軽量で、(つか)を握る手に感覚的な()()を伝えてくる。


(まあ、使わないから関係ねーけど)


 台本は適当に投げ捨て、剣を左手に持ち替える。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ