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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第1章 神苑の守護騎士
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5.自民族中心主義③ 僕は、ずっと腹が立っていた。

「元々角崎たちにいじめられていたのは……須藤さんの方だったんだ。3年生になって少ししてから……角崎が須藤さんをいじめ始めたんだ。理由は分からない。須藤さん人付き合いが苦手みたいで、内向的だったからかな」

「クズの極みだな、角崎(あいつ)……」

「まあね――そういやなんでか最近、僕への当たりが弱くなったけど……」

「へえ」


 含みをもたせて送られる視線を、リュートは適当に受け流した。

 立場上、銀貨をかばうことで(りん)ともめるのは()けたかったが、座視するのも忍びない。

 なので(りん)に屋上の一件――銀貨が彼女のために助けを求めてきたことについては、伝えておいたのだが……一応効果はあったらしい。


(……俺にとっては完全にやぶ蛇だったけどな)


 (りん)の気を銀貨からそらそうと、つい挑発し過ぎてしまった。

 結果リュートと(りん)の関係は、素晴らしく後退した。クラスの目が気になるのか表立っての激しい攻撃はないが、最近では事あるごとになにか仕掛けられる。セラは飯島に相談すべきと主張しているが、それで収まるとも思えない。


(でもまあ考えようによっては、俺を潰すのに躍起になってる限り、他のやつに矛先は向かねえしな。セラの方にちょっかい出されても困るし)


 訓練校では専科の種類にかかわらず、排斥派等の暴力から身を(まも)(すべ)は学ぶ。相手を可能な限り傷つけないことを原則とするので、必然的に、より強くあることを求められるのだ(それがまた、排斥派の不安をあおる一因になっているのも事実だが)。

 故に、セラに対してそういった意味での心配は不要かもしれないが、それでも気にはなるし、気をもむくらいなら、いっそ自分だけを標的にしてもらった方が面倒くさくない。

 銀貨は物欲しそうに答えを待っていたが、リュートがなにも言わないので追及を諦めたようだった。話を戻して続けてくる。


「角崎が須藤さんをいじめても、周りはみんな見て見ぬふり。でも僕は須藤さんを助けたかった。だからあの日、僕は須藤さんをかばったのに……」


 当時の感情がよみがえったのか、語尾に力がこもる。拳を強く握り締め、


「僕は、ずっと腹が立っていた。須藤さんの代わりに僕がいじめられても、彼女はいつも見て見ぬふり。僕がいじめられたのは、須藤さんを助けたからなのに……それがずっと、許せなかった」


 そこまで吐露して少し気が済んだのか、銀貨がふっと息を吐く。同時に瞳の色が後悔に染まった。


「でもあの時、屋上で……僕は角崎を見捨てた。僕は須藤さんに怒る資格がない。いや、資格(うん)(ぬん)の問題じゃない。ただ意地を張ってただけで、本当は僕、須藤さんが……」


 そこまで聞いたところで、リュートは大きくうなずいた。


「話は分かった」


 そして、この流れで冷たいと思わなくもないが、付け足す。


「でも俺、全く関係なくないか?」


 ()(たん)、銀貨がすがるような顔でしがみついてくる。


(りゅう)()君は須藤さんと仲いいでしょ? 部活同じだし、たまに一緒に勉強したりもしてるし。こっそりトイレにまで付いていくのは、ちょっと行き過ぎかなと思わなくもないけど……」

「余計なお世話だ! つかそれ全部把握してるお前もキモい!」

「友達にキモいなんてひどいよ(りゅう)()君!」

「分かった友達でいいしお前はキモくないでも俺忙しいから! ()いたら電話するから、そんときまた話そう! な!」

「え、でも僕の番号知らないでしょ?」

「よく気づいた! じゃあもう一歩頑張って、だからこその発言と気づこーかこの鈍感野郎っ!」

「――そうか! 僕の番号が欲しかったんだね!」

「人並みに悩むくせに、なんで俺に関してだけはとことんポジティブなんだよっ⁉」

「まあまあ、番号は後で教えるから。取りあえずジュースでもおごるよ」

「いらねーよほっとけよもうひとりにしてくれよ!」


 心からの叫びを無視し、ちょうど通りかかったコンビニに、リュートを引っ張り込もうとする銀貨。


「そんなこと言わずに、ほら」

「だからいらねえって!」


 銀貨がドアを()ける。リュートは抵抗するが、圧倒的な体重差が災いして踏みとどまることもできない。殴り倒せば逃れられるだろうが、さすがにそんなことはできず、リュートはずるずると店内に引きずられていった。

 銀貨は、自分の店でもないのになぜか誇らしげに店内を指し示し、


「さあ、なんでも好きなのを選んで」

「お前、こんだけ行動力あるなら、自分でなんとかできるだろ。いろいろと……」


 どうしたものかと――差し当たっては騒がしいとにらまれないかが気になって、レジで会計を済ませている客へと目をやり、凍りつく。

 てっきり支払いをしている客だと思い込んでいた。それが普通の光景だから。

 だがよくよく見るとその男は、右手に握ったナイフを、カウンター越しに店員に突きつけていた。店員は青ざめた顔で、両手いっぱいに紙幣や硬貨を握り締めている。どうやらレジから、カウンターに置かれた黒のバッグにお金を移し替えようとしていたらしい。

 男は客ではなく、強盗だった。


◇ ◇ ◇

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