5.リバースデー⑪ やり直したいなら
◇ ◇ ◇
夜明けが近づいている。
守護騎士車の後部座席から、窓を通して空を見上げ、セラははやる心を抑えていた。
明け方近くになり、明美の家に交代の護衛が到着した。といっても彼らは家の外で待機するため、明美のそばに付けるわけではない。だからセラは引き続き、明美と共にいなければならない。
そのもどかしさが伝わってしまったのか、目を覚ました明美が笑って言ってくれた。
自分が外に出て、守護騎士たちのそばにいるから大丈夫だと。
「休日は早朝ジョギングしたりもするから、書き置き残しておけば、お母さんも心配しないだろうし。その後は、友達と遊びに行くとでもなんとでも理由つけられるし」
まあジョギングなんて、いつも三日坊主で終わっちゃうんだけどね、と冗談めかして笑う明美に、セラは心の底から感謝した。
その後はテスターと共に、交代の護衛と入れ替わりで守護騎士の車に乗せてもらい、訓練校へと戻ることになったのだが。
(なに、この感じ……?)
ざわざわと、どうしようもなく胸が騒ぐ。
動悸が収まらない。
怖い。
(お兄ちゃん、無事なの……?)
ぎゅっと拳を握る。
突き詰めて考えていけば、恐慌の波にのまれてしまいそうだ。
怖い。
と――
緊張して汗ばんだ握り拳の上に、とんとなにかが触れた。
驚いて右隣を見やると、テスターがこちらの拳に左手を置いていた。それは少し前まで外気にさらされていたため、ひんやりと冷えている。なのに不思議と、ぬくもりも感じた。
「大丈夫さ。そうでなきゃ残酷過ぎる」
テスターはこちらを見てはいなかった。にらみつけるように正面を見据えている。
吐き出された言葉は彼の願望で、全くフォローになっていない。
心が限界なのは、自分だけではないのだ。
役割を果たすため、誰もが必死になっている。だから、
「お兄ちゃん、無事でいて……」
願う内容くらいは、欲張ったっていいではないか。
◇ ◇ ◇
目の前の堕神に刃を突き立てようとした時、背後に顕現の気配を感じた。
今や訓練校のあちこちに堕神が幻出・顕現している。援護は期待できない。
(って、そもそも俺がもたついているせいか)
反省もそこそこにして、リュートは剣柄を逆手から順手に持ち替えた。そのまま堕神を横なぎにして、勢いままに振り返る。
(……? なんだ……?)
剣を振るっているからだけではない動悸に、心が騒ぐ。
空間そのものが――ここではない、どこか別の次元が振動し、膨張し、収縮し、また拡散し……とにかく荒ぶっている。
(もしかして、始まったのか……?)
◇ ◇ ◇
視界がぶれる。轟音が響く。身体がねじ切れる。
「ぐっ……」
メルビレナは歯を食いしばった。
(もっと……もっとだ!)
もはや元始世界は存在しない。一時的にゼロ次元へと収納したからだ。他の次元がそれに引きずられるのをなんとか押しとどめながら、力を調整する。
次元の蠢動に刺激され、光と闇の奔流が、全てを塗りつぶそうとする。それは再生への胎動でもあった。
だけどそれに身を任せるだけでは駄目なのだ。
(やり直したいなら、もっと、もっと必要だ。せめて取り戻したいなら、もっと捧げねばならぬ……!)
メルビレナはゼロ次元の楔へと手を伸ばした。
◇ ◇ ◇