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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第8章 終焉の守護騎士
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5.リバースデー⑦ 決断する前に始まってしまった。

◇ ◇ ◇


 (ふく)(しゅう)が達せられそうだというのに、心は晴れるどころかざわつくばかりだった。

 動揺は()()の力を弱めさせ、回帰形態の()(しん)をも呼び寄せた。箱庭への回帰形態の(げん)(しゅつ)は、世界の存続を危うくする。なんとか()()は維持しながらも、(ふく)(しゅう)の実行に関して迷いが生じていた。

 しかし決めかねているうちに、彼女という存在の(くさび)()(しん)を導いてしまった。

 決断する前に始まってしまった。貫くしかなかった。


◇ ◇ ◇


 須藤明美の身体(からだ)から離れて、時間の感覚を失ったのは痛手だった。

 どれだけの時間が()ったのかも分からず、焦燥の中メルビレナは探し続けた。探して、探し続けて。そして――


「っ!」


 メルビレナは一帯に()(しん)のいない場を見つけ、降下した。赤茶けた大地に降り立って見渡した光景は、よりいっそう閑散としていた。

 誰もいない。なにもない。

 この世界におけるヒト――(しん)(ぼく)は箱庭へと渡り、動物は死に絶え、植物は枯れ果てた。存在するのは()(しん)だけ。


「この世界を創ったのは私だ。生かすも殺すも私次第。荒廃したところで、誰が私を責められよう」


 わざわざ口に出したのは、反対のことを考えていたからだった。

 物思いの沼に沈む前に、変化が訪れた。

 10メートルほど先で次元がゆがむ。

 驚きはない。むしろ前兆を感知したからこそ、この地点に来たのだ。


 通常とは桁外れに強い、()(しん)の存在感。

 箱庭から排除されたのだろう。一度ばらばらに砕けた粘土を練り直すように、それは出現した。

 ベースは通常の()(しん)と変わらない。しかし身体(からだ)の各所の部位で、細胞の異常増殖や欠損が見られる。特に大きな違いは《()》だ。細胞異常のためか、なぜだかふたつある。そしてその両方とも萎縮している上、膨張した肉片に圧迫されて埋もれかけていた。


(回帰形態……それも多くの意識を内包している上、自我の残存レベルも著しく高い)


 ()(しん)はすぐに、憎き女神の存在に気づいたようだ。こちらへと注がれる視線に、激しい憎悪を感じる。

 絡まりついてくる憎しみは、ただの動物的な怒りではない。ねじれ、ゆがみ、永い時をかけて醸成・濃縮されてきた、理性の果てにある醜く人間的な憎悪だ。


(あやつとなら、交渉できるレベルまでもっていけるかもしれない)


 こちらを射抜かんばかりににらみつけるその目を見返して、メルビレナは笑みを浮かべた。


◇ ◇ ◇

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