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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第8章 終焉の守護騎士
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5.リバースデー④ 幾十万という時をかけて

◇ ◇ ◇


 どうしても仲間が欲しくて、ひとりの男を核に、力を集めていった。世界中の魂を強引に精錬し、回収し、新たな世界でまた昇華させ――繰り返し繰り返し、幾十万という時をかけて、男に力を集めた。

 そして力が極限まで高まり、あと少しで対等な仲間に転化するという時……

 男に裏切られた。


◇ ◇ ◇


「――顕現予兆を感知っ!」


 肩口の無線機から生じた鋭い声が、静寂を打ち破った。即応部隊のレオナルドの声だ。


「1……2……4体が顕現予定! 最速顕現座標は――」


 顕現座標を聞いた時には、リュートは()(けん)を発動させて走りだしていた。向かうは世界守衛機関(WGO)本部棟の前庭だ。無論そこにも(おとり)役は配備されているが、できることなら速攻で自分が狩りたかった。

 顕現座標に到着すると同時、見計らったかのように()(しん)が現れる。

 リュートは勢いを殺さぬまま、()(けん)を横に振り切った。

 腹を裂かれた()(しん)が悲鳴を上げて消失する。

 次いで襲ってくる激痛に身体(からだ)を折る余裕もなく、無線から声が飛ぶ。


「リュート! 次は背後だ!」


 レオナルドの声。どうやら近くで見ているらしい。


(立派な先輩になりやがって)


 苦笑し、振り向きざまに空間を()ぐ。

 手当たり次第の(けん)(せい)のつもりだったが、運が味方をしてくれたらしく、(やいば)は顕現した()(しん)の首をはね飛ばした。

 ――ッ! 痛イ! 痛イッ!

 不思議なことに、悲鳴は頭部と身体(からだ)の両方から聞こえてきた。

 ――痛イ! ヤメテ! 助ケ――

 ぶつりと途絶える悲鳴。

 消えた()(しん)と入れ替わるように、底のない酷痛がやって来る。生きながらにして首をはねられる痛みは、呼吸をも実際に停止させた。


「く、そっ……」


 左手で自身の首元をつかみ、押し出すようにして息を吐き出す。


(首はマジで、やべえな……あと頭も、()けた方がよさそうだ)


 感覚的に脳が死んだとして、戻ってこられる自信がない。

 片膝を突いてあえいでいると、誰かが顔をのぞき込んできた。

 エリザベスだ。澄んだ(あお)(いろ)の瞳には、今は曇りが生じている。


「大丈夫っ⁉」

「はい。問題、ないです……」

「焦らず来なさい。でなきゃ最後まで()たないわよ。もっと私たちを信頼して」

「すみません」

(落ち着け。エリーの言う通りだ)


 肩を貸そうとするエリザベスを手で制し、自力で立ちながら考える。


(先は長い。考えなしに突っ走ればすぐ息切れだ。そうなれば逆に、仲間に迷惑がかかる)


 あくまで気力や体力の消耗を抑えつつ、迅速に狩らねばならない。


(そういうさじ加減は苦手なんだけどな……)


 しかし、


「2体隠滅! 続いて直近顕現確認! リュート、いけるか⁉」

「はい!」


 悠長にぼやく暇もない。

 リュートは答え、駆けだした。


◇ ◇ ◇


 元始世界のよどんだ空を、メルビレナは(かけ)ていた。

 はるか下方の大地を、回帰形態の()(しん)たちがさまよい歩いている。一瞬にして追い抜くため見えるわけもないが、メルビレナには()えていた。


 軽い。

 (おも)うだけでどこまでも飛べる。

 いや、(おも)うよりも先に身体(からだ)が動く。

 器に縛られない本来の身体(からだ)が、力の解放に飢えている。

 身体(からだ)も、力も、心すら。それぞれが縦横無尽に駆け回り、ともすれば制御を失いかねない。

 久しく離れていた感覚に、高揚感が無尽蔵に押し寄せる。

 限りなく万能に近く――そして、果てしなく全能から遠い力。


(…………)


 メルビレナは可能性を探して飛び続けた。

 こうしている間にも、箱庭から排除された()(しん)らが再生し、回帰形態で歩き回る。そして力を回復した(のち)、再び箱庭へと(げん)(しゅつ)する。

 できれば阻止してやりたいところだが、和解を求めながら暴力に訴えるさまを見せるわけにはいかない。ただでさえ箱庭では、時間が()つほどに()(しん)が滅されているのだから。


(だから早くけりをつけなければならない)


 目的のものだけを求めて、ただひたすらに飛ぶ。箱庭の何百倍もの、広大な大地の上を。


(あれか……? いや、あれではまだ話もできない。もっと、もっと極限まで回帰した、理性の残った存在――()(しん)の意識の集合体がどこかにいるはず……)

 可能性を求めて、女神は飛び続けた。


◇ ◇ ◇

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