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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第8章 終焉の守護騎士
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5.リバースデー② そこに疑う余地はない。

◇ ◇ ◇


 吹きつける寒風が、グラウンドの砂を舞い上げる。

 今日は風が強い。飛散した(すな)(ぼこり)は高校からも飛び出して、遠くまで運ばれていくだろう。


(そういや近隣住民から、度々苦情が来てるんだっけか)


 風にかき回された髪を適当になでつけながら、テスターはそんなことを思い出した。

 地球人同士のいさかいになど興味はないが、存在自体がクレーム対象みたいな種族である身――または一時的とはいえ、生徒として在籍している当事者――からすれば、対処に追われる(たすき)()高校に多少同情の念は湧く。


(って今はそんなこと、(のん)()に考えてる場合じゃないよな)


 改めて周囲に目をやる。

 年末の(たすき)()高校は静まり返っていた。元々部活動の類いもほとんどなかっただろうが、念のためにと世界守衛機関(WGO)の要請で貸し切りとなっているため、地球人はひとりもいない。今ここにいるのは、十数人の(しん)(ぼく)だけだ。


 右に立つセラは自分同様、特別護衛としてこの場にいる。そのきゅっと口を引き結んだ横顔から、兄のそばで待機したかったという思いがありありとうかがえる。

 彼女を挟んでさらに右には、フリストが立っていた。こちらは護衛というより、(ほう)(ろう)(せき)の管理担当だ。彼のことはリュートに聞かされた――主にひどいめに遭ったという話で――だけでなく、何度か接する機会もあって多少は知っていた。その時にフリストから感じられた余裕のようなものは今はなく、眼前の女神にひたすら緊張しているようであった。


 そしてテスターらの前方――正規の守護騎士(ガーディアン)たちに囲われるようにして、須藤明美が泰然と立っている。

 彼女の中に女神が宿っていることが全(しん)(ぼく)に通達されたのは、つい最近のことだ。多少の動揺は走ったものの、これといった混乱もなく(みな)が事態をのみ込み、今この場がある。


 セラは自虐的に「まとまりが早いのは、主体性のない隷従種族だから」と言っていたが、テスターは少し考えが違っていた。

 (たすき)()高校に通う前は、ただ(しん)(ぼく)の務めを果たすことだけを考えていた。自らの役割を達観したかのように受け入れていた。それこそセラの言う通り、隷従するだけの(しもべ)だったかもしれない。

 だけど、訓練校という閉ざされた世界から外に出て、多くの地球人と触れ合って感じたことがある。そうなれば、さまざまな(おも)いも巡る。そしてそれを経てもなお、女神のために生きることを貫くのであれば……それもひとつの主体性なのではないか。


 恐らくはきっと、大人たちはそうなのだ。明瞭な部分だけを示された小さな世界で、知ったふうに割り切っていた自分とは違う。曖昧でやり切れない過程も経て到達した、本当の覚悟を大人たちはもっているのではないか。今ではそんなふうに思う。


「そろそろ時間だな」


 耳に入った女神の言葉に、自分が再び物思いにふけっていたことに気づく。


()(はず)通りだ。(ほう)(ろう)(せき)()(げん)する際、私も一緒に次元を超える。そして()(しん)の意識の集合体を見つけ、話をつける。その後私は(しん)(しつ)に戻り、力の回復に専念する」


 女神は淡々と『()(はず)』を告げていくが、彼女自身分かっているはずだ。そのひとつひとつをこなすのは容易ではないと。

 セシルは元始世界に行く女神に、護衛を付けることを望んだ。が、邪魔にしかならないと女神自身が一蹴した。そのため次元を渡ってからは、完全に()()()ということになる。


(……危険過ぎる)


 本来なら、検討を重ねた末に少しずつ試みる事柄だ。

 しかし状況は切羽詰まっている。その上、女神を巻き込んで()(げん)するほどの力をもつ(ほう)(ろう)(せき)など、そうやすやすとは見つからない。現状確認されているのは、アタラクシアで回収された石ただひとつだけだ。

 そしてその石は計算上、本日16時ごろに()(げん)してしまう。だからやるなら、今しかないのだ。


「繰り返すが、私の力は万全ではない。元始世界に渡ったら、こちらの世界は無防備になり、一時的に(げん)(しゅつ)や顕現が増えるだろう。その間は、命に代えても地球人を(まも)れ」


 厳しく言い放つ女神に、


「分かってるわよそんなこと。あんたこそ、本当に()(しん)をなんとかできるんでしょうね?」


 腕を組み、いらいらとセラが問う。

 テスターからしてみれば慣れたことだ。が、フリスト始め正規の守護騎士(ガーディアン)たちにとっては、畏れ多過ぎて意味不明な光景だっただろう。彼らは不敬な態度を取るセラに、驚きやあきれのまなざしを向けていた。

 当の女神は、むしろ楽しむようにセラのにらみを真っ向から受け止めた。


「目的が(めっ)(さつ)であれば無理だろう。だが今回は、和解の道を探りに行くのだ。それすら楽にいくとは言えぬが……約束しよう。今ある力の全てを懸けて、()(しん)の脅威は排除する」

「それは頼もしいお言葉ね」

「神だからな」


 女神の不敵な笑みは、こちらの不安を払拭するのに十分な力強さをもっていた。

 ……そのはずなのに、一抹の不安がよぎってしまう。


(今まで試さなかったのは、そうしないだけの理由があったからのはずだ。その理由となる障害は、もう解消しているのか?)


 思っても口に出してはいけないことは、世の中にたくさんある。これもそのひとつだ。

 テスターは頭を振り、愚かな懸念を追い出した。女神がやり遂げると言っている以上、そこに疑う余地はない。いかに満足度の高い結果を出すかは、自分たちの働き次第だ。

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