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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第8章 終焉の守護騎士
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4.死中求生④ 私はなにに祈ればいい?

「なに、もしかして図書館やってないわけ?」


 背後からかかった声に、銀貨は慌てて振り向いた。明美も涙を拭って身体(からだ)をひねる。

 後ろに立っていたのは角崎(りん)だった。片手に本を掲げ、面倒くさそうな目つきで空席のカウンターを見ている。


「せっかく返しに来たのに、無駄足じゃん」

「あ、いや……返却くらいなら、よければ僕が処理しとくよ?」

「そ。じゃよろしく」


 おずおずと伸ばした手にたたきつけるようにして、(りん)が本を手渡してくる。その際に銀貨の顔を(いち)(べつ)すると、


「あんたいつまで後ろめたそうな顔してるわけ? 逆にウザいんだけど」

「え、その……ごめん。でもやっぱり申し訳なくって」

「もう治ってんだから、それでいいじゃん。次またそんな顔してたら殴るから」

「う、うん……」


 直情型の(りん)に淡泊に返されると、どうも調子が狂う。

 もごもごと口を濁しているうちに、(りん)が「じゃ、行くから」と反転してしまう。


「角崎っ……」


 銀貨は思わず立ち上がった。がたりと椅子が鳴る。


「なによ? なんか文句あんの?」


 顔だけこちらに向けたまま、口をとがらせる(りん)


「その……あの……来年も、よろしく。よいお年を」


 なけなしの根性を総動員して、言う。明美が慌てて続いた。


「あ、私からもっ……よいお年をっ」


 (りん)はしばらく無言だった。無言でこちらをじっとにらみ、


「……あんたらもね」


 不承不承といった体で応え、立ち去った。目は合わせてもらえなかったが、それが角崎(りん)にとっての最大限の愛想なのだろう。

 銀貨は椅子に座り直しながら、なんともなしに手元の本へと目を落とした。『厳選! 日本のパワースポット』というタイトルだった。


「角崎ってパワースポットに興味あるんだ。なんか意外だな」

「そうだね。幽霊騒ぎの時も、最初は鼻で笑ってたくらいなのに」

「もしかしてその件があったから、興味もつようになったのかもなあ」


 思い返しながら、それが懐かしい思い出になりつつあることに(さび)しさも覚える。

 あっという間だ。

 あっという間に1学期が終わり、夏休みが過ぎ、2学期も終了した。

 再び物思いに沈む前に、明美が「ねえ山本君」と声をかけてきた。


「なんだい?」

「山本君はさ、パワースポットとか神様とか信じるタイプ?」

「どっちでも……って感じかな。熱心に祈ったりはしないけど、窮地に陥ったら、つい助けを求めて祈っちゃうというか……困ったときの神頼み、みたいな」


 後頭部に手を当て、「一番罰当たりなタイプかもね」と苦笑いする。


「神頼み……まったく、お前たちが羨ましい。祈り、(ざん)()し、可能性を信じられるのだからな」

「……須藤さん?」


 いつもと違う雰囲気の明美に、銀貨は眉をひそめた。

 明美は独白するように続ける。


「私はなにに祈ればいい? 自分を超える全知全能の存在を、どこに探せばいい? そんなものはないと、私自身が知っているのに」


 自暴自棄ともとれる、絶望したような顔。

 たっぷり数秒かけて、銀貨は明美の言葉を、無神論的な話なのだろうと結論づけた。


「まあ信じるかどうかは人それぞれだし。僕だって真面目に信じてるわけじゃないし」

「ではもし神がいないとしたら、どうする?」

「ある意味すっきりするかも」

「すっきり?」

「だって神様がいないなら、もう自分で頑張るしかないし。腹もくくれるというか……あくまで僕の場合はだけどね。できること全部やった上で神頼みの人は、また違ってくるんだろうね」


 特に考えもなしに言うと、明美は押し黙ってしまった。


(もっと真面目に答えた方がよかったかな……?)


 後悔するも、もう遅い。

 銀貨はごまかすために話題をそらした。


「そういえばさ、アタラクシアのニュース見た?」

「アタラクシア?」


 明美が不快げに眉をひそめる。

 もしかして自分との思い出が原因だろうかとさらに気が沈むが、めげずに続ける。


「宣伝の売りにしてた(ほう)(ろう)(せき)、レプリカじゃなくて本物だったんだって。園長が気づいて世界守衛機関(WGO)に報告したって、今朝のローカルニュースでやってたよ」

「あの男か。しらじらしいものだ。強欲だけで(わたり)(びと)(おさ)を散々振り回して、ようやく認める気に――」


 つまらなそうに言い捨てようとして、言葉を切る明美。


「……(ほう)(ろう)(せき)

「うん、だからそう――」

(ほう)(ろう)(せき)……そうか」

「須藤さん……?」


 呼びかけるも、言葉は届いてないようだった。

 明美は瞳を左右に揺らし、想定外の希望を見つけたように、震えながら薄い笑みを浮かべている。

 と思いきや突然立ち上がり、


「小僧、悪くない対話だった」


 そう言い残して、テスターらのいる司書室へと向かった。


(須藤さん……だよね?)


 司書室の扉の向こうに消える明美を見ながら、銀貨は自信なく自問していた。


◇ ◇ ◇

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