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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第8章 終焉の守護騎士
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4.死中求生③ いつまで自分の人生に付きまとうのだろうか。

◇ ◇ ◇


 聞き慣れたチャイム音が、昼を告げる。終業式の日だからといって特別なメロディーになるわけでもなく、なんのひねりもないただの音だ。

 この、学校では定番のチャイム音。これは一体、いつまで自分の人生に付きまとうのだろうか。


 銀貨はそんなどうでもいいことを考えながら、読んでいた本をぱたりと閉じた。

 小学校、中学校、高校と。場所が変わっても絶えず自分を縛る音。たぶん大学でも聞くことになるだろうし、就職先によっては社会人になってからも聞くことになるだろう。

 そうなれば老後を迎えるまで聞き続けるということで、それはある種、一生をかけて擦り込まれる暗示ではなかろうか。音を捉えたら耳を傾けざるを得ない、謎の義務感に支配されるのだ。


(だから昼を告げるチャイムが鳴ったら、急速に空腹を感じ始めるのも暗示なのかもしれない)


 いつもなら気にしないのだが、銀貨は頼む心地で腹に手を当てた。この静かな図書室の中、女の子――特に須藤明美の隣で恥ずかしい音は出したくない。


「結構かかるね、テスター君たち」


 言いながら、大机を越えた先にある司書室へと目を向ける。閉じた扉の向こうで、テスターとセラが真剣な顔で話し込んでいるのが、窓を通して確認できた。

 銀貨と明美も先ほどまではあの部屋にいたのだが、テスターに電話がかかってきた時に、室外へと追い出されたのだ。本当であれば今頃あそこで弁当を食べているはずなのだが、成り行きでお預けとなってしまった。


「秋からずっと慌ただしい感じだし、やっぱり鬼のあの件が大変なんじゃないかな。ちょっと前は排斥デモも頻発してたし……」


 銀貨同様に司書室を見て、明美が気遣わしげに言う。


(まあ、そうか。そうだよなあ。顕現だもんなあ……)


 世間で騒がれていないからいまいち実感が湧かないが、可能性の中でしか語られていなかった顕現が、現実のものとなったのだ。その身を賭して地球人を(まも)(わたり)(びと)としては、(きっ)(きん)(きっ)(きん)、早急に手を打たねばならない緊急事態なのだろう。


(……黙っててよかったのかな、僕)


 今更ながらに思う。

 顕現範囲が限定されているから、今明るみになれば不要な混乱を招くからと説得され、銀貨は顕現について口外しないことを選んだ。

 けれどもそれは、もし顕現により地球人に被害が及べば、自分の選択を激しく後悔するということで……

 自分をかばって血を流した少女のことを思い出し、銀貨はぞくっと背筋を伸ばした。


(あんなのは、もう嫌だ)


 かといって(りゅう)()たち(わたり)(びと)のことを思えば、黙っていてあげたいという気持ちもあって……


(……(りゅう)()君、か)

(りゅう)()君、このまま学校辞めちゃうのかな」


 ずっと気がかりだったことを、口に出す。

 もう長いこと会っていない。こんなことならタイミングとか体裁とか気にせず、きちんと謝っておけばよかった。


「大丈夫だよ。今はちょっと忙しいだけ。きっと3学期には学校で会えるよ」

「……そうだね」


 明美が励まそうと、努めて明るく言ってくれているのが分かった。だから銀貨はそれに感謝し、彼女に笑いかけようとして――


「須藤さん、どうしたのっ?」


 目を丸くして問いかける。

 どういう訳か、明美はぽろぽろと涙を流していた。


「え? あれ、私っ? どうしたんだろう? 別に悲しくなんてないのに……」


 彼女自身混乱したように、こぼれ落ちる涙を拭う。

 こんな場合はなにを言えばいいか分からなくて、銀貨はおろおろと明美の様子を見守った。と――

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