表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第1章 神苑の守護騎士
37/389

4.抜き打ち模擬戦トーナメント④ そのやり方では勝ち抜けない。

「――始めっ」


 合図とともに大きく飛び出す。それはキルケルも同じだった。


 勝ち進むことを考えるなら、省エネすべき部分というものが当然出てくる。

 試合を重ねるほど疲労は蓄積されていく。しかも今回は武器具現の難度が高く、いつも以上に集中力を使う。

 ならば望むは短期決戦。それがキルケルの考えだろう。


 彼の繰り出した(よこ)()ぎの一撃を、リュートはいったん後ろに下がることでかわす。次の縦(いっ)(せん)は、横方向に。その次も、その次も……リュートはひたすら回避に徹した。


「おいっ、逃げんなっ!」


 耐えかねたのか、キルケルが声を荒らげるが。


「逃げるの禁止っていうルールはないです」


 リュートはあくまで自分からは攻撃せず、回避・防御に専念した。普段は下げない、同型タイプの予備の()(けん)――ダガータイプの物は、運悪く整備に出していた――が、体さばきに合わせて多少鬱陶しく揺れる。


「くそっ、早くしねえと……」


 歯ぎしりするキルケル。目に見えて、()(けん)の外形が崩れていくのが分かる。


(――そう、これでいい)


 もとよりリュートに、真っ向勝負をする気など更々なかった。大して強いわけでもない自分は、そのやり方では勝ち抜けない。

 しかし、()(けん)の具現持続につながる(しん)()に関していえば、学年――いや、訓練校内でも突出した強さがあるという自負はあった。


 体育館に来てから(かい)()()えた試合風景から察するに、武器の具現化困難による失格は少なくない。不純液というだけでもつらいのに、完全に凝固させると麻酔薬を浸透させられないため、微調整に神経をすり減らされるのだ。

 通常の()(けん)が使えないことはリュートにとって、制限であるとともに利点でもあった。


(だったら下手に手を出さず、相手の自滅を待てばいい)


 ()(けん)を維持しながら、かすり傷ひとつ負わないこと。それだけに集中すればいい。


「くそ……戦えよ腰抜け(チキン)が!」


 キルケルの()(けん)は、もう(かろ)うじて形を(たも)っている程度だ。もう少し、あと少し……


「……ぐっ」


 キルケルが目を見開き、身体(からだ)を傾かせる。紫のしぶきを上げて()が飛散した。

 彼が地面に倒れ、10秒ほど経過したところで、


「キルケル失格! 勝者リュート」


 審判の判定を合図に、リュートは()(けん)を収めて息をついた。

 数名の訓練生がコート内に入り、キルケルを運び出そうとする。うちモップを持った者がひとり、床に飛び散った血液を拭き取る作業にかかった。どうやら4回生以下は雑務担当らしい。


「やりましたねリュート様!」


 駆け寄ってきたセラが、上機嫌でねぎらいの言葉をかけてくる。

 が、すぐに表情を一変させて、


「でも自滅を狙うなんて、地味っこいですね。模擬戦の本質からもずれてますし」

「いいだろ勝ったんだから。リスクあるのには変わりねーんだし、粘り勝ちだ」


 うっすらかいた汗を拭いながら、セラの指摘を一蹴する。


 ()(けん)発動に際して干渉する対象は、己の血液だ。それにはカートリッジだけでなく、自らの身体(からだ)に流れる血も含まれる。

 つまりは間違ってそちらに干渉し凝固させようものなら、血流が止まって失神してしまうという訳だ。それだとまだマシな方で、不可逆的に凝固させてしまえば死に至る。


 ()(けん)の鉄芯には、意思干渉の伝導率が高い物質が練り込まれているが、今回は仕込まれた不純液により、だいぶ干渉が阻害されていた。キルケルもそのせいで干渉を誤り、体内の血液を凝固させてしまい失神したのだろう。

 無論、リュートにだってその危険はあったが。


「セラ」

「はい?」

「これならマジで狙えるかもしれねーぞ、優勝」


 緊張で乾燥していた上唇をなめ、リュートは不敵に笑みを浮かべた。


◇ ◇ ◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ