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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第8章 終焉の守護騎士
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3.鬼哭啾々③ まるでそれが呪文であるかのように

◇ ◇ ◇


 守衛所の応接室に現れたリュートは、一目で分かるほどうろたえていた。


「な……んでお前らがっ……」

「言いたいことは分かるぜリュート」


 彼が(みな)まで言う前に、テスターは口を挟んだ。

 顕現が起きた場所に地球人――それもひとりは女神と同化した――を招くなど、通常であれば正気の沙汰ではない。自分だって同じ気持ちだ。

 しかし、


「リュート様。これは()()の要望なんです」


 セラが含みを込めて明美を(いち)(べつ)する。


()()の?」


 察したリュートは、なんとも複雑な視線を明美に向けた。

 感情をぶつけたい相手がすぐそばにいるのに、直接的には()れられない。不完全燃焼のいら立ちを内包したまなざしだった。


「というか(りゅう)()君、そんな出歩いてていいのかい? ひどい風邪だったんじゃ……だからお見舞いに来たんだけど」

「風邪?……ああ、そういうことになってんのか」


 ちらりと銀貨に目を移し、合点がいったようにつぶやくリュート。

 耳ざとく聞きつけた(りん)が、ぐいと前へ出た。


「は? まさか仮病だったわけ? ふざけんな死ねっ」


 リュートは、今度は変なものを見たかのような目で(りん)を見た。気味悪そうに、


「つか、お前がいるのが一番驚きなんだけど……まさか角崎も見舞いに?」

「はぁっ⁉ ちょっとやめてよマジでキモい! 私はただこいつらが訓練校行くっていうから、冷やかしでついてきただけだし!」


 必要以上にわめき散らす(りん)

 リュートはそんな彼女とこちらとを交互に見やると、「ああ、なるほど」と興味なさそうに自己完結した。


「お話中ごめんなさいね」


 守衛室へ続く扉から、ひとりの女性守護騎士(ガーディアン)が姿を現す。


「地球人の(みな)さん。注意事項の伝達等があるので、こちらに来てもらえるかしら」


 手招きをする彼女の元に、銀貨たちが集まりだす。

 と、テスターはすかさず手を挙げた。明美を目で指し、


「あ、この子だけ後に回してもらえますか。少し個別に、俺らから伝達事項がありまして」


 その台詞(せりふ)をいぶかしんだのは、守衛守護騎士(ガーディアン)と銀貨と(りん)の3人。

 つまりは個別の伝達事項に関わりない者たちだ。

 問いただされるかと思ったが、守護騎士(ガーディアン)は存外あっさりと承諾し、


「では彼女には後で」


 と銀貨と(りん)を連れ出ていった。もしかしたら、セシルからなにか言い聞かされていたのかもしれない。

 ともあれこれで、気兼ねなく話せる環境が整った。


「さて女神様。できれば情報開示していただけると、俺らとしてはうれしい限りなんですが」

「ほう。貴様も随分となれなれしくなってきたな」


 眉を上げる明美――いや女神に向かって、テスターはひょいと肩をすくめた。


「リュートの影響ですかね、申し訳ありません」

「まあ、別に構わぬ」

「それで本題なんですが。ここは顕現が起きた場所です。居座るのは危険ですよ」


 上座のソファを勧めながら、警告を発する。

 女神は鼻で笑ってソファに腰を下ろした。


「なにを今更。そんなことは、私が一番よく知っている」

「じゃあ本当なんだな」


 低く抑えた声で、リュートが会話に入ってきた。


()(しん)(めっ)(さつ)のため、お前が顕現を望んだというのは」

「なにか問題でも?」


 分かっていて挑発している。

 リュートの導火線に火がつく前に、テスターは穏便に言葉を選んだ。


「顕現が起きて、(しん)(ぼく)の間でも動揺が広がっています。(げん)(しゅつ)と顕現では危険度が桁違いですからね。せめて事前に相談してくだされば――」

「羽虫の中で少し頭が回るからといって、おごり過ぎではないか? 貴様らの(おさ)には伝えてあった。その情報を彼奴(きゃつ)がどう扱うかなど、私の知ったことではない――いやそもそも事前に伝えるべきというのが、(しもべ)には過ぎた考えだ。神が物事を決めるのに、(しもべ)に相談する必要はない。それとも……不服なのはあの(おに)(むすめ)が原因か?」


 足を組み、女神が尊大にテスターらを見回す。


「あの(むすめ)()(しん)に対抗するため、私が永い時をかけて熟成させた毒だ。毒は使わねば無意味だろう」

「あんたって本当っ――」

「なんだ? 悪神とでも言いたいのか? ちっぽけな感情で世界を滅ぼそうとした愚か者が、よくも私を罵れるな」


 かっとなるセラに先んじて、女神が(あく)(げん)を吐く。

 言葉を失うセラの代わりに、リュートが女神の前へと進み出た。震える拳を握りしめながら、凶悪な目つきで女神を見下ろす。


「お前は本当……なにも変わらないんだな。誰よりも永く生きてるくせに、なにも成長していない」

「たかが(しもべ)が偉そうに。私は大局を見ている。現に今、()(しん)(めっ)(さつ)のシナリオを(えが)いているではないか」


 嘲笑とともに、女神が片手を振るう。


「顕現のため一度(ひら)いた空間は、もう完全には閉じられない。訓練校は()(しん)を導くゲートとなった。今は低い顕現頻度も、いずれは(げん)(しゅつ)並みになるだろう」


 女神がなぜそんな顔をしたのかは分からない。

 しかし彼女は確かに、狂喜にゆがんだ愉悦の笑みで、リュートを仰ぎ見た。


「貴様はもう戻れない。その(のろ)われた身で、()(しん)を殺し続けるしかないのだ」


 まるでそれが呪文であるかのように――

 ()(しん)が現れた。


◇ ◇ ◇

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