3.鬼哭啾々② 唯一無二の戦力
◇ ◇ ◇
空になった皿をテーブルの上に置き、リュートは窓の外を見た。
激しい雨音が耳に届く。それがなくとも、窓やアスファルトの地面を雨粒がたたく様を見れば、その激甚さは知れた。
稀にみる悪天候。朝食の連れはいない。
テスターもセラも用事があるとかで、早朝から訓練校外へ出ていた。
この1週間、リュートは顕現に備えて訓練校の授業に戻っていたものだから、ふたりとはずっと長いこと距離を置いている気がした。テスターに関しては、寮が同室であるにもかかわらずだ。
(っつっても別に、ひとりに慣れてないわけでもねーしな)
考えたいことはたくさんあった。こうして食堂の隅でひっそりと、ひとりきりの時間を過ごすのも悪くない。
(……そのためには、こいつはどうあっても邪魔だけど)
いいかげん無視するのも限界で、リュートは仕方なく、テーブルを挟んで正面に立つ男を見上げた。彼がそこにいる限り、周囲の視線を集めてしまうのは否めない。
「なにかご用でしょうか、学長」
嫌みったらしく問うとセシルは、一応はいたわるように小首をかしげた。
「いや、様子を見に来たのだよ。君は替えの利かない戦力だからな」
「そりゃどーも」
頰をひくつかせ、リュートは笑った。
なるほど確かに、自分は現時点で唯一無二の戦力だ。学長様、神僕の長様がいらっしゃっても不思議ではない。
値踏みをする目でセシルが続ける。
「心身ともに痛みを伴う滅殺手段。君は耐えられるのか?」
「大丈夫ですよ。誰かさんのおかげで、痛みには慣れてますから」
当てつけたいがための言葉であったが、あながち嘘でもなかった。
初めて顕現が起きてから、さらに2体の堕神を殺した。堕神を傷つけるたび激痛に襲われたが、受け入れてしまえば覚悟も決まる。
問題は精神面の方だ。
心に入ってくる堕神の憎悪が大き過ぎて、のまれそうになる。だんだん心がむしばまれていく。
それにあらがう楔となるのは、誰も憎まずに消えた少女の存在だった。
(アスラ……)
リュートは、テーブル上の懐中時計に目を落とした。
アスラが消えたあの日から、時計の針は止まったままだ。電池を替えても修理をしても、時計は時を刻まない。
それでもリュートにとっては大切な、お守りのような物だった。
「それはよかった」
セシルは両手を後ろに回し、満足げな笑みを浮かべる。
「ところで君に朗報だ。友人たちが会いに来てくれたぞ」
「……は?」
この緊迫しつつある状況でなにを言っているのか本気で分からず、リュートは間の抜けた顔でセシルを見上げた。
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