表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第8章 終焉の守護騎士
365/389

3.鬼哭啾々② 唯一無二の戦力

◇ ◇ ◇


 空になった皿をテーブルの上に置き、リュートは窓の外を見た。

 激しい雨音が耳に届く。それがなくとも、窓やアスファルトの地面を雨粒がたたく様を見れば、その激甚さは知れた。

 (まれ)にみる悪天候。朝食の連れはいない。

 テスターもセラも用事があるとかで、早朝から訓練校外へ出ていた。

 この1週間、リュートは顕現に備えて訓練校の授業(本業)に戻っていたものだから、ふたりとはずっと長いこと距離を置いている気がした。テスターに関しては、寮が同室であるにもかかわらずだ。


(っつっても別に、ひとりに慣れてないわけでもねーしな)


 考えたいことはたくさんあった。こうして食堂の隅でひっそりと、ひとりきりの時間を過ごすのも悪くない。


(……そのためには、こいつはどうあっても邪魔だけど)


 いいかげん無視するのも限界で、リュートは仕方なく、テーブルを挟んで正面に立つ男を見上げた。彼がそこにいる限り、周囲の視線を集めてしまうのは否めない。


「なにかご用でしょうか、学長」


 嫌みったらしく問うとセシルは、一応はいたわるように小首をかしげた。


「いや、様子を見に来たのだよ。君は替えの利かない戦力だからな」

「そりゃどーも」


 頰をひくつかせ、リュートは笑った。

 なるほど確かに、自分は現時点で唯一無二の戦力だ。学長様、(しん)(ぼく)(おさ)様がいらっしゃっても不思議ではない。

 値踏みをする目でセシルが続ける。


「心身ともに痛みを伴う(めっ)(さつ)手段。君は耐えられるのか?」

「大丈夫ですよ。誰かさんのおかげで、痛みには慣れてますから」


 当てつけたいがための言葉であったが、あながち(うそ)でもなかった。

 初めて顕現が起きてから、さらに2体の()(しん)()()()()(しん)を傷つけるたび激痛に襲われたが、受け入れてしまえば覚悟も決まる。

 問題は精神面の方だ。

 心に入ってくる()(しん)の憎悪が大き過ぎて、のまれそうになる。だんだん心がむしばまれていく。

 それにあらがう(くさび)となるのは、誰も憎まずに消えた少女の存在だった。


(アスラ……)


 リュートは、テーブル上の懐中時計に目を落とした。

 アスラが消えたあの日から、時計の針は止まったままだ。電池を替えても修理をしても、時計は時を刻まない。

 それでもリュートにとっては大切な、お守りのような物だった。


「それはよかった」


 セシルは両手を後ろに回し、満足げな笑みを浮かべる。


「ところで君に朗報だ。友人たちが会いに来てくれたぞ」

「……は?」


 この緊迫しつつある状況でなにを言っているのか本気で分からず、リュートは間の抜けた顔でセシルを見上げた。


◇ ◇ ◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ