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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第8章 終焉の守護騎士
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3.鬼哭啾々① らしくない筆頭

◇ ◇ ◇


 やはりおかしい。

 銀貨がそれを確信したのは、(りゅう)()が1週間ぶっ通しで学校を休んだ時だ。

 月曜日、担任教師の(いい)(じま)は、(りゅう)()は風邪で欠席だと言った。

 火曜日も同、水曜日も木曜日も、そして本日金曜日も同。


(りゅう)()君、まだ風邪治らないの?」


 中庭の壁際にある石ベンチで昼食を取りながら、銀貨はテスターに探りを入れた。

 向かいの木を囲む円形ベンチに腰掛けていたテスターが、激わさびパンをかじってうなずく。()(しゃく)中の彼の代わりに、隣に座る瀬良が口を(ひら)いた。


「そうなんですよ。かなりたちの悪い風邪にかかったみたいで。たぶん、もうしばらくは登校できないと思います」

「へえ。じゃあ明日(あした)土曜だし、お見舞いにでも行こうかな」

「やめた方がいいぜ。感染(うつ)ったら大変だし、それ以前に許可が下りない」


 空になったパンの袋を丸め、テスターが余地なく反対する。


「でも心配だよ」

「私も行きたいな、お見舞い」


 銀貨の隣で、明美が援護の声を上げる。


「須藤さん。気持ちはありがたいんですけれど、私たちにも事情が――」

「お願い。()()()()()、余計なことはしないから」


 銀貨は明美の横顔を見た。

 いつもの彼女と様子が違う。妙に押しが強いというか、違和感があった。

 気のせいかとも思ったが、向かいのふたりもなにかを感じ取ったらしい。まじまじと明美の方を見つめ、


「分かった。一度学長に聞いてみるよ。()()だぜ?」


 テスターが立ち上がり、スマートフォンを取り出しながら隅の方へと歩いていった。


「ありがとう」

「いえ。でもあくまで()()ですから」


 礼を言う明美に瀬良が念を押す。その表情や声音からは、なぜかギスギスしたものが漂ってきていた。

 なんとなく会話を継続しづらくなり、成り行きの沈黙が続いた。

 瀬良と明美はパンの残りを食べることに集中し、とっくに昼食を終えていた銀貨は、手持ち無沙汰にスマートフォンをいじる。

 個々人で隔絶された空間を遠慮なくぶち破ってきたのは、意外でもあり、ある意味順当でもある人物だった。


(みず)(たに)、ちょっといい?」


 茶髪の生徒が近づいてきて、瀬良へと声をかける。

 気の強そうな顔立ちの少女、クラスメートの(つの)(ざき)(りん)だ。銀貨と明美にとっては、暗い記憶を思い起こさせるトラウマ発生装置でもある。


「はい、なんでしょう?」


 ほとんどにらむような目で見られているのにもかかわらず、瀬良がにっこり(りん)を見上げる。

 瀬良の完璧な愛想笑いを見ていると、腹の底では凶悪極まりないこと――例えば「ウゼえな寄んじゃねえよいっぺん死んでこいクソが」とか――を考えているのではないかと、怖くなる時がある。さすがにそんな極端なことはないだろうが。

 (りん)は心底嫌そうに、事務的な事柄を並べ立てた。


「古文の(たち)(かわ)から(あま)()への伝言。今日締め切りの課題、特別に来週末まで延ばしてくれるって。いい? 私はちゃんと伝えたんだから、あとはあんたが伝えてよ」

「はい、わざわざありがとうございます」

「ほんと『わざわざ』だし。立川とすれ違ったせいで、大切な昼休みの一部が潰れたし」


 偉そうに腕を組む(りん)

 瀬良は不思議そうに聞き返した。


「伝えていただいてなんなんですけど、それなら別に、昼休み終わってから教室で言えばよくありません?」

「そこでうっかり忘れたら、土日入っちゃうじゃん」

「意外に律義なんですね」

「うっさいわね。だいたいあいつが風邪ごときでぶっ倒れるへなちょこだから――」


 ひとり勝手にヒートアップしてきた(りん)が、突然口を閉じる。

 戻って来たテスターは(りん)と目が合うと、「よっす」と手を上げた。

 (りん)はふんと目をそらしたが、彼は気を悪くした様子も見せず、明美へと近づく。


「須藤、構わないってさ。ついでに(やま)(もと)も」


 自身は納得がいっていないのか、特に後半を理解しかねるように付け足すテスター。

 明美がうれしそうに手を合わせる。


「じゃあ決まりだね。明日(あした)はみんなで天城君のお見舞いっ」

「ああ。俺とセラで最寄り駅まで迎えに行くから。時間はまた連絡する」


 テスターが話を締めようとしたところで、(りん)が割って入った。


「あんたたち、訓練校に行くの?」

「うん。天城君のお見舞いに」


 うなずいたのは明美だった。

 先ほどと同じく違和感。

 彼女が、面と向かって(りん)に返事できるのが不思議だった。いつも自分と同じく、(りん)が近くにいる時は身を縮めて目立たぬようにしているのに。

 が、らしくないといえば、今日のらしくない筆頭はこれに尽きるだろう。


「よかったね山本君。これで――」

「わ、私もっ」


 明美の言葉を遮って滑り込んできた(りん)に、一同ぽかんと彼女を見つめた。

 視線を集めた(りん)自身も己の発言に驚いている様子なのは、たぶん笑い所ではあるのだろうと、置いていかれた思考で銀貨は考えていた。


◇ ◇ ◇

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