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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第8章 終焉の守護騎士
361/389

2.絶遠六花⑦ アスラには視えていた。

◇ ◇ ◇


 特殊第1運動場には、絶望が(まん)(えん)していた。


「なんだよこれ……?」


 立ち尽くし、非常灯に照らされた周囲を見渡す。

 何十名もの守護騎士(ガーディアン)が、()(しん)を遠巻きに攻めあぐねている。アシスタントの肩を借りるなど、負傷している者も多くいた。

 苦渋の表情を浮かべる彼らの視線の先――アスレチックの近くでは、2体の()(しん)守護騎士(ガーディアン)たちを相手に暴れている。


 6人の守護騎士(ガーディアン)が放つ()(けん)はことごとく透過され、逆に()(しん)の爪は守護騎士(ガーディアン)を度々捉えていた。

 どうやら()(しん)は攻撃の瞬間だけ、ピンポイントで透過を解除しているらしい。守護騎士(ガーディアン)が相打ち覚悟で()(けん)を突き出しても、むなしく空を斬るだけだ。

 かといって逃げ腰になれば、()(しん)が移動を開始する恐れがある。


 結果(しん)(ぼく)にできることは、複数人で()(しん)の気を引きつつ、可能な限り自身の負傷を()けるという超消極的対処のみだった。

 結末の見えた絶望的なジリ貧の中、放り出すこともできずにただ身をさらす守護騎士(ガーディアン)たち。

 かつて見たこともない光景に、リュートは身がすくむのを感じていた。


「お前なにをしている⁉」


 (しっ)()の声に振り向くと、壮年の男性守護騎士(ガーディアン)が背後に立っていた。頭に血のにじんだ包帯を巻いており、それ以外随所に見受けられる、むき出しの傷口が痛々しい。

 そしてそれらを見て、動揺は吹き飛んだ。


「訓練生は下がっていろ!」


 焦慮に駆られた顔で怒鳴ってくる守護騎士(ガーディアン)に、リュートは一言、


「俺やれます!」


 とだけ言い放って駆けだした。


「は? 馬鹿かお前⁉ おい戻れ!」


 守護騎士(ガーディアン)の声を背に、()(しん)の元へと走る。

 途中医務室に寄って、新しいカートリッジは作製済みだ。


(っつっても時間がなかったから、2本しか作ってねーけど)


 2本で足りるかは、ぶっつけ本番で確かめるしかない。

 カートリッジを()(けん)(つか)に挿し、血の(やいば)を発現させる。鋭利に仕上がった(やいば)はきらめき――形を乱した。


「っ……⁉」


 溶け落ちようとする(やいば)に慌てて意識を注ぎ、なんとか形をとどめる。


(っ……アスラの血の影響かっ?)


 さらに注力して揺らぐ(やいば)を先鋭化すると、リュートは前方の守護騎士(ガーディアン)たちへと声を投げかけた。


「交代願いますっ!」

「なに言ってるんだ⁉」

「君訓練生じゃないの!」


 当然の反論は無視して、1体の()(しん)に向かって()(けん)を構える。


 ――殺ス!

「っ⁉」


 脳内ではじけた(えん)()の声に、顔がゆがむ。


 ――女神ガ憎イ、絶対ニ殺シテヤル! 殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤルッ!

(こいつが()()()()()()のか!)


 リュートは片耳を押さえながら、目の前の()(しん)を見据えた。

 ()(しん)はリュートになにかを感じているのか、すぐには襲ってこなかった。

 と、相対する白い巨人が突然ぶれる。

 そして粗くなった姿に重なるように、人影が現れた。その顔は――


「カークっ⁉」


 記憶に新しいその顔は、最も記憶に残った悲痛な表情を張りつけていた。

 回帰形態でもないのに声が聞こえ、魂が()える。これもアスラの力故ならば。

(アスラには()えていた。狩られる()(しん)の魂が、いつも()えていたんだ……!)

 そしてそれを今、自分も()ている。


()(しん)の素顔に()れられる力で、俺は()(しん)を殺すのかっ……)

 ――女神ヲ殺ス! 女神ノ下僕ノ……オ前モ殺ス!


 ()(しん)――いやカークが拳を突き出してくる。

 リュートは左に飛びながら、()(けん)でカークの脇腹を()いだ。


「入ったっ⁉」


 守護騎士(ガーディアン)のひとりが、(きょう)(がく)に満ちた声を上げる。

 殺してしまった。

 自分の意志で殺してしまった。


「カークっ……」


 リュートは肩越しに、カークが()()するのを見届け――


「――っ⁉」


 突如襲った激痛に身体(からだ)を折る。

 ぐらついた足は身体(からだ)を支えきれず、リュートはそのまま地面へと倒れ込んだ。

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