2.絶遠六花⑥ 雪降る空を見上げていた。
◇ ◇ ◇
暗がりの中、アスレチックの台にひとりの少女が座っている。
銀髪の少女は膝を抱え、雪降る空を見上げていた。
セラはテスターとふたり、彼女のそばまで歩いていく。
気づいた少女――アスラがこちらを振り返った。膝より下を、台の縁から投げ出すようにして座り直し、
「リュー君に言われて来たの?」
「ええ。『俺は少し離れるから、アスラを頼む』って」
言い終えぬうちに、テスターがアスラの真正面へと回り込み、彼女を見上げる。その横顔はどこか硬い。
「アスラ。リュートはどこだ?」
「堕神の所」
「堕神って……顕現したあの⁉ 緋剣も通じないのに⁉」
声が裏返る。
顕現絡みだとはうっすら分かっていたが、セシルの呼び出しかなにかだと思っていた。
「そんな無茶な……」
「大丈夫だよ。あたしが力をあげたから」
アスラはそう言って説明してくれた。顕現した堕神の特徴や、その対処法を。
「……つまり今現在、お兄ちゃんだけが顕現した堕神を葬れるってこと?」
「そう。そしてそれが、メルちゃんの望みでもある」
「女神の……?」
セラは眉根を寄せた。意味が分からない。
しかしそれをセラが問いただす前に、テスターが右手を挙げた。
「質問いいかな?」
「どーぞ。アスラ先生はなんでも答えるよ? 答えられることならね」
おどけたように、アスラ。
いつものテスターなら付き合って冗談を言ったりするところだ。
が、彼にしては珍しく真面目な調子を崩さずに、手を下ろして後を続けた。
「存在の共有は、いつまで持続するんだ? 互いに喰らい合う存在が、拮抗し続けるなんて無理だろう」
「テス君はいつも冷静だね。冷静に、痛いところを突いてくる」
曖昧に笑うアスラに、テスターが追い打ちをかける。
「君は喰うのか? それとも……」
「⁉ それって――」
「いいの」
セラの言葉をアスラが遮る。控え目な口調のはずなのに、有無を言わさぬ圧を感じた。
「いいのあたしは。リュー君もこの世界も好きだから、後悔はないよ……でも」
アスラはここで初めて、迷いを見せた。
「ごめんね。それでもやっぱり、仲間が死ぬのは嫌なの。斬られる時に痛いのは、神僕だって地球人だって……堕神だって同じ。その痛みだけは知ってほしい。そう思うのが……止められないの」
「アスラ……」
「ごめんねセラちゃん。きっとリュー君はこれから先、あたしのせいでつらくなる……本当に、ごめんね」
アスラは泣きそうな顔で、「ごめんね」と繰り返した。
◇ ◇ ◇