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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第8章 終焉の守護騎士
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2.絶遠六花④ 言うだけなら自由だもん。

◇ ◇ ◇


 濃紺の空から、白い粒が引っ切りなしに降りてくる。見上げた目に雪が()れ、リュートは反射的に目を閉じた。腰掛けたアスレチックからは、ズボンを通して早々に冷えが伝わり始めていた。

 リュートは空から地面へと視線を落とした。せっかちに登場した雪は地面に降り立つと、あっという間に溶け消えてしまう。

 しかしこのまま間断なく降り注げば、少しずつでも積もっていくだろう。すでにリュートの身体(からだ)には、白い(まだら)が付着していた。これで最終的に風邪でもひけば、セシルの嫌みも降り注ぐに違いない。

 制服の折れ目にたまった粉雪を払い落とし、リュートはつぶやいた。


「傘くらいは持ってきた方がよかったかもな」

「なんで? そんなのもったいないよっ」


 アスレチックの前ではしゃぎ回っていたアスラが、耳ざとく聞きつけて断言してくる。

 特殊第2運動場は、リュートとアスラの他には誰もいなかった。舞い落ちる結晶にわずかな音も奪われ、静かな空間が辺り一帯に広がっていた。


「ふふ、ほんとに雪だあ。本物ー♪ でも溶けちゃうー♪」


 アスラは雪をつかみ取り、握った拳を(ひら)いては空っぽの手のひらを見て笑う。


「いっぱい積もったらみんなで雪合戦ができるね。あとちっちゃい雪だるまをいっぱい作って、運動場の隅にずらっと並べるの。ひとつひとつ顔も違うんだよ?」


 その様を思わず想像してしまい、リュートも笑った。


「すごい気の入れようだな」

「言うだけなら自由だもん。なんだって言っちゃうよ」


 ご機嫌に答え、歌いだす。


「その歌はさすがに早過ぎないか?」

「えへへ、クリスマスだって先取りー♪」


 リュートの指摘をあっさり流し、アスラは歌を再開した。いつものように。


(今までと同じ。これで、元通り……だよな?)


 確かめるように、胸中でつぶやく。しかし独白ですら断言できなかったことで、かえって落ち着かない気分にさせられた。


(……いや、大丈夫だ。俺がいる限り、アスラが力尽きることはない。そうだろう?)


 回帰形態の()(しん)(げん)(しゅつ)した件については気になっていたが、報告は上げているし、自然公園で(たい)()して以降は遭遇していない。


(俺ができることは、全てやっている……はずだ)


 考えているうちに、アスラが1曲を歌い終える。そしてまた、服に雪が積もっていた。

 リュートは再度雪を払い落とし、寒さに身を震わせながら空を見上げる。


「にしても本当、なんでこの時期に雪なんだ?」

「他次元からの干渉が極値に近づくと、気候に影響を与えることがあるんだって」


 息を整え終えたアスラが、満足そうに教えてくれる。


「へえ……」


 漫然と(あい)(づち)を打ち、


「え?」


 なにか重要なことを聞き逃した気がして、リュートはアスラに目を向けた。

 彼女は手のひらに載っては消える雪を見つめながら、


「憎悪は降り積もり、いつか必ず追いついてくる……憎しみも雪みたいに、時間とともに溶ければいいのに」


 懐に手を入れ、なにかを取り出した。


「……アスラ?」

「ね、リュー君?」


 折りたたみナイフを手にしたアスラは、暗い(ほほ)()みを返してきた。

 同時に知覚した次元のゆがみに……決定的ななにかが始まったのだと、リュートは漠然と理解した。


◇ ◇ ◇

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