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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第8章 終焉の守護騎士
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2.絶遠六花③ ほどほどにな

◇ ◇ ◇


「やった! またあたしがいっちばーん!」


 アスラが()()とした顔で、自分の駒をゴールへと進める。

 セラはお手上げの仕草をした。


「ほんとアスラは、こういうのが強いわね」

「そしてお前はほんと、こういうのに弱いよな」

「るせえな。こんなんゲームだろゲーム」


 あきれるテスターに、リュートは減らず口をたたいた。

 僅差でアスラに勝てなかったテスターやセラと違い、リュートは負けも大負け、債務者が追いやられる『負け犬公国』のゾーンで右往左往していた。何度やっても。


「つかなんなんだよこのすごろく。もっとこう、普通のやつはないのか……?」


 負け惜しみというわけではないが、眉をひそめてテーブルに広げられた盤面を見る。


「部屋に置いてあるボードゲームは『人生争奪ゲーム(これ)』だけだよ。シル君も変な趣味してるよねー」


 盗聴されているであろう室内で、ばっさりと言うアスラ。


「きりもついたし、そろそろ部屋に戻るか」


 テスターが棚上の時計を見ながら、テーブルに散らばったゲーム用紙幣を集めだす。


「あ、そのままでいいぜ。俺が後で片づけとくから」


 なんの気なしに言った言葉は、予想外に注意を引いた。

 テスターは横目で見上げてくるだけだったが、セラは探るように、


「後でって……お兄ちゃんはまだここにいるの?」

「な、なんだよその目は?」

「あれだろ、妹としてはふしだらなお兄ちゃんが気になるんだろ?」

「ふしっ……」

「ば、馬鹿言わないで! そんなんじゃないわよ!……ないわよね?」

「ねーよ!」


 テスターの軽口に調子を乱され、セラとふたり動じた声を上げるリュート。


「とにかく! ここは俺が片づけとくから、お前らはとっとと帰れ!」

「分かったわよ、もう!」

「んじゃ、片づけよろしく。()()()()()()、リュート」


 あくまで軽い口調は崩さずに、テスターはセラと出ていった。


「んーっ。やっぱり医務室より、こっちの方が落ち着くなー♪」


 大きく伸びをして、ぼすりとソファに腰を落とすアスラ。

 目覚めてから1カ月近くを経て、ようやく彼女は自室へと戻ってこられた。今夜はそのお祝いを兼ねたハッピーハッピー★プチパーティー(アスラ命名)だった。


「こんなに元気になれたのも、リュー君のおかげだよっ。絵も完成したし。ありがとう♪」

「俺は別になにも……」


 リュートは壁一面に飾ってある、額縁の一群へと目をやった。大量のジグソーパズルが並ぶ中、1枚だけ絵が飾ってある。

 オリーブの木を(えが)いた色鉛筆画。素人目には、『色鉛筆でゴッホをめざしつつ横道にそれたらこうなるんだろうな』というタッチに見える。独特の個性があり、芸術的評価としてどの辺りに位置するのかは分からない。が、まあどう転んだとしても、セラよりうまいことに間違いはないだろう。

 土日に各数時間ずつ()いた後は、毎日日の出から1時間ほどを使ってこつこつと描き進め――なにせ平日なので、そこしか時間が取れなかった――昨日(きのう)ようやく完成した。


「ふふ、次はなにを()こうかなー♪」

「もう少し様子見て、大丈夫そうなら一緒に公園行くか。そろそろ(こう)(よう)の時期だし、絵を()くにはぴったりだぜ」

「行く行くー♪ あたしマッハで元気になっちゃう♪」


 力こぶを作るアスラに笑みを送り、リュートは立ち上がった。ライティングデスクの引き出しに、採血キットが入っているはずだ。

 無意識に二の腕をさすってから、布地を通過して染み入ってくる冷気に気づいた。


「急に寒くなってきたな」


 窓でも()いていたかと顔を向けると、思わぬ光景が目に入った。


「……雪?」


 窓の外でちらほらと、白い(ちり)が降っている。道理で寒いわけだ。


「ぅわあぁぁっ、雪だあっ♪」


 びたんと窓に張りつくアスラ。疑念を感じる自分の方がおかしいのかと思ってしまうほど、彼女は雪を抵抗なく受け入れていた。


「早くないか? まだ10月だぞ」


 リュートはアスラの隣に立って、窓ガラスに額を寄せた。


「そんなことよりリュー君、早く早く!」

「え?」


 アスラは腰に手を当て、当然のように胸を張った。


「雪が降ったら遊ばなきゃっ、でしょ♪」


◇ ◇ ◇

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