2.絶遠六花② 本の山に埋もれるようにして
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(もう、また借りられてる!)
書棚のぽっかり空いた空間を見て、胸中で毒を吐く。
精錬世界の真実を知って以降、セラは暇を見つけては図書館に通っていた。
史実を――特に神僕の歴史を調べ、もっと多くの真実を知るために。
だけどここ最近、調べ物に必要な歴史書の類いが、狙ったかのように貸し出し中になっているのだ。高等訓練生にもなって、今更借りるものでもないだろうに。
(なんで私の邪魔をするのよっ)
理不尽な主張だと分かってはいたが、吐き出さずにはいられない。
自分は形から入るタイプなので、出端をくじかれるとそれだけでやりづらいのだ。
(仕方ないわね。この本だけでも確認しましょ)
セラは抱えた数冊の本に目を落とし、座席を探して図書館内を移動した。
しかし、いつも使っている座席一帯はなぜか満席だった。
不思議に思ってから気づく。最近出されたレポート課題の分野は、この座席近くの書棚と同じだ。一時的に需要が増えているのだろう。
お気に入りの席を使えないことに、さらにいら立ちを募らせながら、セラはその場を離れた。
いちいち邪魔が入ることが腹立たしくて、いっそすねるように、セラは日当たりが悪い上に照明も少ない座席区画に移動した。この人気ワースト1席なら、さすがに空いているだろうと。
そして、大机にいる先客を見て、慌てて書棚に身を隠した。
(テスター君っ?)
本の山に埋もれるようにして大机にいたのは、テスターだった。
(課題を片づけてるのかしら……?)
別に隠れる理由もなかったのだが、反射的に隠れてしまった流れで、セラは書棚の陰から様子をうかがった。
(! あの本、私が探していた……)
山と積まれた本の背表紙に、探していた本のタイトルを見つけ、理解する。
テスターも自分同様、精錬世界や、神僕の歴史について調べているのだ。
途端湧き起こった仲間意識に押され、声をかけそうになるが――
額に手を当て、得られない答えにいら立っているようなテスターの顔。
誰かに見つかるのを避けるように、わざわざ不人気な席に着いていること。
(……今は集中してるだろうし。今度会った時、調べ物してるから手伝ってって頼んでみましょ)
なんとなく声をかけることがはばかられて、セラは黙って引き返した。
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