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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第8章 終焉の守護騎士
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1.怨嗟胎動④ 足りないなら俺をやる。

◇ ◇ ◇


「あ、リュー君!」

「起きてたのか」


 布団をはねのけベッドから出ようとするアスラを手で制し、リュートは室内へと入っていった。


「気分はどうだ?」

「絶好調だよー♪ だって昨日(きのう)に続けて、リュー君が今日も来てくれたんだもんっ」


 答えるアスラは確かに元気そうではあった。


(でも……だったらなぜ、彼女はここから出ようとしない?)


 いつも、休むのが罪だといわんばかりに動き回っているアスラ。そんな彼女が、今はおとなしく狭い部屋にこもっている。

 リュートはベッド脇に立ち、アスラの(きゃ)(しゃ)身体(からだ)を見つめた。


「アスラ」

「んー?」

「本当は、物足りないんじゃないか?」


 ()(たん)――アスラの顔が凍りつく。


「もし(しん)()を欲してるのなら――」

「そんなことない!」


 たたきつけるような否定に、リュートの言葉はのみ込まれた。


「だってあたしは、リュー君たちを傷つけたりしないものっ!」


 必死の形相でアスラが叫ぶ。

 それは怒鳴り声に近かったが、なにかにおびえているようでもあった。


「君が悪いわけじゃない。君は(ほう)(ろう)(せき)との同調により、蓄えていた力の多くを消耗してしまったんだ。衰弱した身体(からだ)が、埋め合わせるなにかを求めている。それだけだ」


 リュートは淡々と言葉を紡ぎ、アスラの肩へと手を伸ばした。

 その手が、はたき落とされる。


「離れて」


 うつむいたアスラの口から、弱々しい音が漏れる。


「……そうだよ。あたし今、リュー君を欲しいって思ってる。その血がおいしそうって思っちゃう……そんなこと、あっちゃいけないのに……そう思うのを、()められないの……」

「じゃあやるよ」

「……え?」


 アスラが顔を上げる。

 リュートはサイドテーブルに置いてあるペン立てから、ハサミを抜き取った。()を全開にして持ったそれで、そのまま左手の甲を切り裂く。


「リュー君っ⁉」


 目を見開くアスラに、リュートは血に染まる左手を差し出した。


「足りないなら俺をやる。奪われるだけだった君は、求めたっていいはずだ」

「でも……だって……」

「好きなだけ俺を()え」


 右手でアスラを抱き寄せ、理解する。


(……ああそうか。埋め合わせたいのは俺の方か)


 今ある世界を諦めることなどできず、でも彼女に対して、埋め合わせるだけのなにかはしたくて。

 アスラは震える唇を、傷口へと近づけた。


「リュー君、ごめんね……」


 倒錯した自己満足の沼にはまっていくことを自覚しながら、リュートは静かに目を閉じた。


◇ ◇ ◇

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