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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第8章 終焉の守護騎士
347/389

1.怨嗟胎動② 自分だけを見てくれている。

◇ ◇ ◇


 温かい。

 熱を感じたわけではない。ただ漠然と伝わってくる、包み込まれているような感覚に、温かいと素朴に思った。

 目を()けると、包み込んでくれているのはお日様の光だった。


(目が覚めるって、こんな感じなんだ……)


 今まで意識が途切れるという経験がなかったから、とても新鮮に感じる。

 窓から差し込む光を見ながら、アスラは身を起こした。

 この場所は見覚えがある。

 正確には、自分が一時期宿らせてもらっていた少女から受け継いだ知識・記憶だが。とにもかくにもここは、世界守衛機関(WGO)本部棟にある第1医務室――それも絶対安静用の個室――だった。どうやら自分は、そこのベッドに寝かされていたらしい。


(あれは……夢、だったのかな?)


 夢だったのか、夢のような出来事だったのか。全く判断がつかない。

 ただどちらにせよ確実なのは、言い様のないほど、苦しくて切ない気持ちにさせられたことだ。

 自分の大部分を形成する()(しん)の魂は、恐らく元をたどればパルメリアへと行き着く。もっと遡ることもできるのだろうが、感情まで近しいのは彼女だろう。

 あの世界からはじき出されて見られなかった結末も、想像がつく気がした……いや、覚えているような気がした。

 だけどそのことについて考えるだけで、胸が締めつけられるように苦しい。


(……お布団、ちゃんと使うの初めて)


 せっかくだから、もう少しベッドに横たわっていようか。

 そう思った時、医務室の扉が(ひら)いた。入ってきたのは黒髪の少年だ。最後に顔を見た時よりも、ひどく(しょう)(すい)しているように見える。

 少年は煮詰まったように、片手で髪をかき回し――


「アスラっ⁉」


 半身を起こしているこちらに気づくと、慌てて駆け寄ってきた。


「大丈夫か⁉ 長いこと目を覚まさないから、俺心配でっ……」


 その目に宿る真摯な感情に、アスラはこそばゆくなり、


「大丈夫だよぅ」


 と笑い返した。


「よかった……」


 少年――リュートはいったん(あん)()の表情を浮かべたものの、すぐに思い詰めた顔へと戻った。


「……ごめん」

「リュー君?」

「俺、なんにも分かってなくて……もっと自分で考えるべきだった」


 顔をゆがめてうつむくリュート。

 彼がなにを考えているのかは、なんとなく分かった。

 だけどそれは誰が悪いとか、そういう問題ではないのだ。

 たぶんもっと根深いなにかが――


「リュー君は悪くないよ。というよりもあたしだって、あたしのことよく分かってないし」


 冗談交じりに自虐し、アスラは部屋を見渡した。


「ここにいるってことは……戻ってきたんだよね? あたし、どのくらい眠ってたの?」

「1週間だ」

「ってことは、もうすぐ夏休み終わっちゃうのかぁ」


 あの世界での滞在時間も踏まえると、そういうことになる。


「みんなで花火やるつもりだったんだけどなあ……プールにも行きたかったし。あと少しの間にできるかな?」


 アスラが予定を立て直そうとしていると、リュートが言いにくそうに訂正してきた。


「いやそれが……どうも()()()()()とじゃ、時間の流れが違ってたらしい」

「どういうこと?」

「今日は9月12日なんだ」

「……そっか、もう新学期始まっちゃったんだね」


 帰って来られただけで御の字なのだろうが、それでもやはり残念だった。


「やり逃したことは、これから少しずつでも埋め合わせていけばいいさ」


 リュートがフォローするように付け加える。


「そうだね」


 アスラは笑い――ぐらりと傾きかけた景色に、はっと目を(ひら)く。


「どうしたっ?」


 リュートがすぐさまこちらの肩をつかみ、案ずるように顔をのぞき込んできた。


「ん。ちょっと急に起きて疲れちゃったみたい。少し眠るね」

「眠い、のか?」

「うん。不思議だよね、今までそんな感覚なかったのに。でも寝られるってことは、リュー君たちと同じ生活リズムになるってことで、悪くないよね」


 アスラは笑って横になり、もぞもぞと布団に身を埋めた。

 顔だけを出して、ねだるようにリュートを見る。


「……寝つくまで、そばにいてくれる?」


 頭にぽんと手を置かれ、優しくなでられた。


「ああ、ちゃんといる。そばにいるから、安心して眠りな」


 普段リュートがアスラの相手をする時は、地球人の目などなにかに気を取られていることが多かった。

 そのリュートが今、自分だけを見てくれている。

 それがうれしくて、アスラは大きな充足感とともに目を閉じた。


◇ ◇ ◇

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