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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第8章 終焉の守護騎士
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1.怨嗟胎動① きっと全ては彼に集約されているのだ。

◇ ◇ ◇


 一安心だ。

 しかしなにかがおかしい。


 渦巻くふたつの感情をうまく処理できず、(ぎん)()は窓際の彼へと視線を注いだ。

 まだ登校のピークには少し早いため、教室内は数えるほどしか人がいなかった。

 その中で、守護騎士(ガーディアン)の制服を着た黒髪の少年――(りゅう)()(ほお)(づえ)を突いて、前方の黒板を眺めていた。というよりかは、虚空を見つめていた。

 いつもの(りゅう)()なら、朝のショートホームルームまでの時間を利用して、なにかしらの勉強をしているところだ。なのに数週間ぶりに見た彼は思い詰めた顔で、なにをするでもなく時を消費している。

 それがおかしいことのひとつ。


 ふたつめの違和感は、()()が代わっていることだ。

 通常時の朝の役割はこうだ。

 (りゅう)()の仲間であるテスターが早朝に登校し、(たすき)()高校での(げん)(しゅつ)に対処する。(りゅう)()の方は、やはり訓練校の仲間である()()と共に、通常時間帯に登校する。そしてその時はいつも、クラスメートの()(どう)(あけ)()がそばにいた。

 なんでも明美は鬼がひどく苦手らしく、頼まれて一緒に登校しているらしい。正直最初はいろいろ――どちらかがどちらかを好きだとか、もっと進んで付き合っているとか――疑ったが、特に浮ついたものも感じられないので、その点に関しては気にしないことにしていた。


 閑話休題。

 それが今日に限っては、テスターが瀬良・明美と登校してきて、(りゅう)()が早朝の番を担っていたようだった。銀貨は教室で彼らが顔を合わせるのを目撃したが、(りゅう)()は最低限の挨拶だけを投げて、即座に顔をそらしてしまった。


 ……そしてなにより奇妙なのは。

 先週――新学期明けてからの1週間を、(りゅう)()・テスター・瀬良の全員が欠席したことだ。理由はインフルエンザだという。

 無論、それらの違和感ひとつひとつに理由を見つけることはできる。

 勉強をする気分ではなかった、単に当番を交替した、運悪く3人一緒にインフルエンザにかかった……などなど。

 しかし重なり合う違和感は、すべてがひとつにつながっている気がした。


 ……そう。きっと全ては彼に集約されているのだ。

 銀貨は諦めずに注視し続けた。彼がこちらを振り向いてさえくれれば、きっとそれをきっかけに万事元通りになるのだ。


(じゃあなんで話しかけに行かないんだよ)


 今まで散々人に謝罪を求めておきながら、自分はあの日のことを彼に謝ることもできないのか。


(ほんと口だけの意気地なしだな!)


 己を罵倒することでなんとか勢いづけ、銀貨はがたりと立ち上がった。

 人の少ない教室だ。移動するだけで注意を引いてしまうが、銀貨は開き直って歩いた。むしろテスターや瀬良の耳にも届くなら、自分の謝意も伝えやすくなる。


(りゅう)()君」


 名を呼び、彼の目の前に立つ。

 (りゅう)()の反応は目に見えて鈍かった。こちらを見上げる彼の(そう)(ぼう)に疲れを感じ取り、出直そうかとも思った。

 しかしこういったことはタイミングが命だ。始めてしまった以上は最後まで続けなければならない。


「アタラクシアでのことだけど――」

「悪い」


 間髪()れずに遮られる。


「勝手やった上に、置いてっちまったよな。本当にすまなかった」

「あ、いや。僕の方こそ――」

「気をつけるよ。『そんなつもりじゃなかった』は言い訳にならない。どんな結果になるか、考えて行動しないといけないよな」


 意図したわけではないのだろうが、(りゅう)()は銀貨の謝罪を見事なまでに封じ込めた。あまりに深刻そうな物言いに、


「う、うん……?」


 と戸惑っているうちに、(りゅう)()(ほお)(づえ)を突いたまま、窓へと顔をそらした。

 なまじ()れた上で終わった話題になってしまったため、蒸し返して謝るのもはばかられる。

 そうこうするうちに、登校のピークで生徒も集まりだす。

 結局――なにひとつとして違和感を払拭できないまま、銀貨は朝のショートホームルームを迎えた。


◇ ◇ ◇

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