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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第7章 月影の哀悼歌
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4.終極のリベリオン⑩ いま一度役割を思い出す。

◇ ◇ ◇


「極値に、達した……?」


 まばゆい光に包まれながら、(ぼう)(ぜん)とつぶやく。

 目の前の光景が信じられなかった。つい昨日(きのう)まで創造力の(へん)(りん)すら見せていなかったパルメリアが、今癒やしの力を行使している。

 無論、容赦なく暴虐に握り潰された魂を復活させるなど、到底できるわけもない。

 けれども重要なのはそこではない。極値に達した以上は、パルメリアの魂を回収しなければならない。

 彼女の歌をもっと聴いていたかったのに。

 だから禁忌を犯してまで山賊たちを殺したのに。

 それがきっかけでパルメリアは極値に達した。


「……はは」


 笑えてくる。

 額に手を当て、ギルティークは口をゆがめた。


「はは、そうか……結局俺は、どこまでいっても従僕ってわけか」


 ここまで無慈悲に見せつけられると、いっそすがすがしい気分にもなる。


「残念だ、パルメリア」


 首飾りの砂時計を反転させ、冷厳と告げる。


「これより世界は混ぜ戻される」


 砂時計が発した(しゃっ)(こう)が、パルメリアの発する(びゃっ)(こう)をのみ込んだ。

 彼女は戸惑っていた。自身から放たれる白い光に。内にあふれる力に。ギルティークがこれからもたらそうとする事態に。


「なに……どういうことギル君⁉ 混ぜ戻されるってなんなの⁉」


 詰め寄ろうとする彼女。しかしもう遅い。たった少しのふたりの距離は、取り戻せないほどに断絶してしまった。

 ギルティークは後ろに跳んだ。ぶつかるはずの木々が、()れることなく消失する。


「ギル君!」

「待て、近づくな!」


 追いすがろうとするパルメリアを、生意気な(しん)(ぼく)が引き止める。


「危ないよパルちゃんっ」


 少女に後ろへと手を引かれながら、パルメリアは少年に食ってかかった。


「なんで? どういうことなの⁉ あなたは知ってるのっ? 教えてよ!」

「俺も知らない……知ろうともしなかった」


 少年はかぶりを振ると、こちらをひたりと見つめてきた。


「本当なのか? 女神が自ら世界を滅ぼしてるって……それも、自分の力を増幅させるためだけの目的で」

「創ったのは女神だ。だったらいつ終わらすかも自由だろう?」


 我ながら女神のように(きょう)(まん)な物言いで答える。

 徹底的な絶望をたたきつけられた彼の顔を見るのは、愉快ともいえた。ギルティーク自身が(いだ)くことすら許されなかった感情を、同じ顔の少年が代わりにさらけ出している。


「数え切れないほどの精錬世界を、一方的に滅ぼしてきたのか? 失われる命を踏み台に、力を練ってきたというのか?」

「そうだ」

「あらゆる命が、女神の都合に合わせて殺されるのか⁉」

「そうだよ!」


 糾弾するように叫ぶ少年に、ギルティークは右手を広げて叫び返した。


「精錬世界は女神のためだけに存在する。ここだって変わらない……女神様がご所望なんだよ、この世界の《反転》を! 俺はその役割をずっと果たしてきた。何十万年もだ! 俺はただの従僕で、世界は力を育むためだけに()る牧場だ!」


 (しゃっ)(こう)(ひろ)がっていく。空に大地に、その手を(ひろ)げる。世界の全てを覆い尽くすまで。

 光の中心で、(しん)(ぼく)ギルティークはいま一度役割を思い出す。


「パルメリア・イツール。お前の魂を回収する」


◇ ◇ ◇

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