4.終極のリベリオン⑩ いま一度役割を思い出す。
◇ ◇ ◇
「極値に、達した……?」
まばゆい光に包まれながら、呆然とつぶやく。
目の前の光景が信じられなかった。つい昨日まで創造力の片鱗すら見せていなかったパルメリアが、今癒やしの力を行使している。
無論、容赦なく暴虐に握り潰された魂を復活させるなど、到底できるわけもない。
けれども重要なのはそこではない。極値に達した以上は、パルメリアの魂を回収しなければならない。
彼女の歌をもっと聴いていたかったのに。
だから禁忌を犯してまで山賊たちを殺したのに。
それがきっかけでパルメリアは極値に達した。
「……はは」
笑えてくる。
額に手を当て、ギルティークは口をゆがめた。
「はは、そうか……結局俺は、どこまでいっても従僕ってわけか」
ここまで無慈悲に見せつけられると、いっそすがすがしい気分にもなる。
「残念だ、パルメリア」
首飾りの砂時計を反転させ、冷厳と告げる。
「これより世界は混ぜ戻される」
砂時計が発した赤光が、パルメリアの発する白光をのみ込んだ。
彼女は戸惑っていた。自身から放たれる白い光に。内にあふれる力に。ギルティークがこれからもたらそうとする事態に。
「なに……どういうことギル君⁉ 混ぜ戻されるってなんなの⁉」
詰め寄ろうとする彼女。しかしもう遅い。たった少しのふたりの距離は、取り戻せないほどに断絶してしまった。
ギルティークは後ろに跳んだ。ぶつかるはずの木々が、触れることなく消失する。
「ギル君!」
「待て、近づくな!」
追いすがろうとするパルメリアを、生意気な神僕が引き止める。
「危ないよパルちゃんっ」
少女に後ろへと手を引かれながら、パルメリアは少年に食ってかかった。
「なんで? どういうことなの⁉ あなたは知ってるのっ? 教えてよ!」
「俺も知らない……知ろうともしなかった」
少年はかぶりを振ると、こちらをひたりと見つめてきた。
「本当なのか? 女神が自ら世界を滅ぼしてるって……それも、自分の力を増幅させるためだけの目的で」
「創ったのは女神だ。だったらいつ終わらすかも自由だろう?」
我ながら女神のように驕慢な物言いで答える。
徹底的な絶望をたたきつけられた彼の顔を見るのは、愉快ともいえた。ギルティーク自身が抱くことすら許されなかった感情を、同じ顔の少年が代わりにさらけ出している。
「数え切れないほどの精錬世界を、一方的に滅ぼしてきたのか? 失われる命を踏み台に、力を練ってきたというのか?」
「そうだ」
「あらゆる命が、女神の都合に合わせて殺されるのか⁉」
「そうだよ!」
糾弾するように叫ぶ少年に、ギルティークは右手を広げて叫び返した。
「精錬世界は女神のためだけに存在する。ここだって変わらない……女神様がご所望なんだよ、この世界の《反転》を! 俺はその役割をずっと果たしてきた。何十万年もだ! 俺はただの従僕で、世界は力を育むためだけに在る牧場だ!」
赤光が拡がっていく。空に大地に、その手を拡げる。世界の全てを覆い尽くすまで。
光の中心で、神僕ギルティークはいま一度役割を思い出す。
「パルメリア・イツール。お前の魂を回収する」
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