4.終極のリベリオン⑦ 着古した制服のように肌になじんだ。
◇ ◇ ◇
屋内は思っていたよりも暗かったらしい。外に出た瞬間、明るさで目がくらんだ。
(黒髪黒目で女神の僕って……やっぱギルティークだよな?)
自分こそ少ない特徴で決めつけ、顎に手を当て思案する。
(あいつなら精錬世界のサイクルについて知ってるかもしれねーし、もう一度行ってみるか?)
完全に横道だが、どうしても確かめたかった。と、
「あ、君」
前方からかかった声に顔を上げると、見覚えのある男――というより、見覚えのある格好をした人間が、こちらに歩いてくるところだった。
男は深紅の上下に身を包んでいて、腰には日本刀とサーベルを合成したような剣を下げていた。この街における警邏隊の標準装備だ。
「ちょうどいいところに。また会いたいと思ってたんだ」
男がはっきり顔が見える位置まで来たことと彼の発した言葉で、格好だけでなく彼本人にも見覚えがあることに、遅まきながら気づく。
「昨日はお世話になりました」
リュートはぺこりと頭を下げる。男は昨夜、報奨金の手続きと医者の手配してくれた警邏隊員だった。
「いやいやこちらこそだよ。それより、君に警告しておきたいことがあってね」
「警告?」
「昨日君から報告を受けた後、倒れた山賊たちを捕らえに向かったんだが……我々が着いた時にはすでに、血の跡だけを残して消え去っていた。恐らくは自力でアジトに帰ったか、襲撃には関わっていなかった残党に回収されたのだと思う」
警邏隊員が曇らせた瞳に、彼がなんの目的でこちらを捜していたのかを察する。
案の定、彼は心配そうに言ってきた。
「もしかしたら、報復に来るかもしれないと思ってね。警戒しておいた方がいい」
「ご親切にどうも」
リュートは内心苦笑した。あまりに親切過ぎて、逆に戸惑っている自分に気づいたのだ。神僕に関係しない行政機関がこうした気遣いを見せてくれるなど、箱庭世界ではそうはお目にかかれないだろう。
「ところで」
警邏隊員が、すっと目を細める。横滑りするように礼拝所へと視線を向け、
「君はゼリアの民と関わりが? 紋様はないようだけど」
探るように視線を転じる。こちらに向けられた彼のまなざしは、着古した制服のように肌になじんだ。
リュートはひょいと肩をすくめる。
「ちょっと人を捜しておりまして、聞き込みをしていただけです」
「そうか、そういえば昨日もそんなことを言っていたね」
安心したように、息をつく警邏隊員。
「だが彼らとは、あまり関わらない方がいい。女神様を愚弄する者たちだ」
「気をつけます」
「それでは。女神様の加護あらんことを」
「加護あらんことを」
警邏隊員を真似て印を結び、リュートは宿のある方向――警邏隊員とは反対の方向に歩きだした。
つい先ほどは、精錬世界の意義に疑問を抱いた。そして警邏隊員がゼリアの民に向けたまなざしを脳内再生しながら、今また思う。
世界がどれだけ精錬されても洗練されない感情があるのなら、本当に、世界のサイクルにどれだけの価値があるというのか。
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