表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第7章 月影の哀悼歌
338/389

4.終極のリベリオン⑥ 誰が始めた嘘なのか。

 リュートは構わず続けた。


「女神の配下がどうとか言っていたようだが……その表情を見る限り、あんたらは女神への敬意をもたないらしいな」


 言うと男は、かっと目をむいた。


「我々は中央政府の甘言に惑わされる、愚かな民衆とは違うのだ!」

「というと?」

「女神は万能な慈悲の神などではない!」


 男が顔を朱に染めて、(こん)(ぼう)を横に振るう。


「あれは戯れに命を弄び、気まぐれに心を踏みにじる傲慢な悪神だ!」

「それについては否定できないっつーか、俺も全力で同意したいとこだけど」


 リュートは苦笑いし、問いを重ねた。


「取りあえず、あんたがそう思う根拠はなんなんだ?」

「我らゼリアの民は、真実に選ばれし民。かつて大魔法使いと呼ばれた者の予言を、代々語り継いできた。その予言は未来視であり、世界の歴史をひもとく言葉でもあったのだ。ゼリアの民は女神の真実を知らしめようと、必死に各地で説いて回った。(けい)(もう)されて真実に目覚め、民の一員となった者もいる。私もそのひとりだ。しかし……」


 拳を握りしめ、ギリギリと歯を鳴らす男。


「多くの者はその真実を、(たわ)(ごと)だと一笑に付すだけだ。そんなことではまた、世界は終わってしまうだろう」

「世界が終わる?」

「世界は女神によって創られ、女神に見守られている。それは正しい見解であると同時に、大きな間違いなのだ」


 この男は常に、語る機会を探しているのだろう。いつの間にかこちらを警戒することも忘れ、熱の入った説教師のごとくまくし立てる。


「女神は世界を創っては滅ぼし、命を生み出してはもぎ取っていく。己の力を増幅させるという、ただそれだけのために!」


 男が話しているのは、精錬世界のサイクルのことだろう。


(だけど、どういうことだ?)


 リュートが教えとして聞かされてきたのは、寿命により滅びた世界を女神が創り直し、(しゅう)(えん)と創世のサイクルを繰り返していたこと。そしてその過程で世界の住人を、女神に近しい、より高次な存在へと転化させてきたこと。

 (しゅう)(えん)を迎える前の世界を自ら滅ぼしていた――それも力の増幅などという、くだらない理由で滅ぼしていたなど、聞いたことがない。


(しょせんはこの世界の中で生まれた予言だ。間違っていたってなんらおかしくはない)


 ……それとも。

 予言が正しくて、女神自らが世界を滅ぼしていたのか……?

 女神への信仰を疑っても、女神の過去の行為を疑ったことはなかった。それは次元を超えた世界の歴史で、真実で、根幹だった。

 どうしてそれが正しいと思っていたのか。誰が始めた(うそ)なのか。


(……いや、今は話を進めよう)


 揺らぐ基盤を強引に立て戻し、リュートはさらなる疑問をぶつけた。


「で、なんで俺が女神の配下だと?」

「予言でうたわれる一節には、こうある。漆黒の髪に、闇を映し出す瞳。その男、女神の(ちゅう)(じつ)(しもべ)なり。外界より舞い降りた黒き悪魔は慈悲もなく、ただ冷徹に世界を滅する」

「……それだけ?」


 黒髪黒目というだけで悪魔認定されればたまったものではないが、男はそこに彼なりの(しん)(ぴょう)(せい)を感じ取っているらしい。至って大真面目な顔で続ける。


「お前の連れは、聞き慣れぬ言葉で歌っていた。それに見たところ、お前はこの世界の内情にうとい」

「……俺が女神の配下でないことは、証明できない。あんたがそうでないのを証明できないのと同じようにな」

「そんなの――」

「俺は予言には無関係だ。ただの旅人で、人を捜している。ここに来たのはあんたが俺を見てたから、なにか知ってるんじゃないかと思ったからだ。捜しているのは金髪の少女と(とう)(はつ)の少年。異国語を話せ、俺と同じような格好をしている可能性が高い。見たことあるか?」


 中断される前にと一気に詰め込んで言い切ってから、反応をうかがう。

 男はなおも疑わしげに、こちらをじっと見つめるが――やがてゆっくりと首を横に振った。


「そうか、邪魔して悪かった」


 男が伝承だの言い出した時から予想はできていた答えなので、リュートは特に食い下がりもせずきびすを返した。一応背後を警戒するのは忘れなかったが、男にはもう攻撃の意思はないようだった。

 外に出る直前、リュートは顔だけを振り返らせた。


「俺。あんたの気持ち、少し分かるぜ」


◇ ◇ ◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ