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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第7章 月影の哀悼歌
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4.終極のリベリオン⑤ 恐れ、蔑み、忌避している。

◇ ◇ ◇


 男の後を()けるのは簡単だった。この世界の多数派と思われる金髪に対し、男の髪色はすさんだような赤銅色。顔に紋様もあるため非常に目立つ。

 なんとなくの気がかりにアスラを巻き込むのも気が引けたので、彼女には宿で待機してもらうことにし、リュートひとりが男の後を追っていた。

 尾行に気づかれないよう注意しながら、男から距離を取って付いていく。

 そして男に注視している中で、リュートは気づいた。


(あの男も、パルメリアと同じか)


 魔法使い(うん)(ぬん)の話ではない。

 視線だ。

 男とすれ違う人々が、男に向ける視線。

 恐れ、蔑み、忌避している。

 こういった視線は、箱庭世界で生きている(しん)(ぼく)には日常茶飯事だ。当たり前過ぎて、そういう空気の中にいても受け流すのが、リュートの中で常態化していた。

 だから気づかなかった。リュート以外の者に向けられている、負の視線に。


(あれはあいつ単体への感情か? それとも……)


 通行人は、男の顔に反応しているようだった。それがもし紋様への反応なら、それに関わるコミュニティーが忌避されていることになる。

 当の男は、視線も意に介さずに進んでいく。

 大通りを抜けた小さな通りの、さらに奥――路地裏のような細道に、男は入っていった。

 人通りが極端に少なくなってきたので、リュートはよりいっそう注意して足を進めた。


 太陽の光も遮断される、じめじめとした裏通り。男は迷いない足取りで、石造りの小さな建物へと姿を消した。

 扉が閉まったことを遠目に確認すると、リュートは建物に近づいた。

 入り口の上の石壁に、ナイフが張りつけにされている。


(どこかの民族か、なんらかの思想を掲げる集団の――集会所か礼拝堂か……ただ単に、寂れた武器屋ってこともあるかもな)


 リュートは(しゅん)(じゅん)(のち)、意を決して扉に手を添えた。

 ノックはせずに扉を(ひら)く。

 小さい規模の粗雑な造りではあるが、やはりここは、礼拝堂のような場所らしい。複数の長椅子や、奥には教壇らしきものが確認できた。

 そして入り口から少し進んだところに、先ほどの赤毛の男が立っていた。長椅子から(こん)(ぼう)――各背もたれの裏に、なぜだか取りつけられている――を取り外しながら、こちらを振り向いた。


「ピックか? 急ぎ相談したいことが――」


 勘違いに気づいたらしく、男が目を見開く。


「お前っ……⁉」


 一瞬の硬直後、男は(こん)(ぼう)を手に、こちらへと躍りかかってきた。


「待て! 俺はそういうつもりじゃっ……」


 慌てて()(けん)を抜き、(こん)(ぼう)を受け止める。

 げぎんっと、(けん)(しん)に亀裂が入らないか心配になるほどの音を立て、(こん)(ぼう)が止まる。


「お前……女神の配下か⁉」


 じりじりと顔を寄せながら、男。

 リュートは()し負けないよう、()(けん)を握る手に力を込めた。


「落ち着けよ! 俺はあんたを、傷つけに来たわけじゃ……ない!」


 バッと()(けん)を振り切り、そのまま両手を上げる。

 男はこちらの言葉を信じたわけではないだろうが、ひとまずは攻撃をとどまることにしたらしい。はじかれた(こん)(ぼう)を構え直すと、リュートから距離を取った。

 半ばおびえ、半ば憎しみともいえる視線を受け止めながら、リュートは口を(ひら)いた。


「俺はリュートだ。あんたの名は?」

「…………」


 男は答えない。さすがに名を明かす気はないということか。

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