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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第7章 月影の哀悼歌
330/389

3.終局のディスペラート⑤ 馬鹿げた悲劇

◇ ◇ ◇


 村人たちは半円状にテスターらを囲っていた。弓をつがえたままこちらを見据えている者たちの後ろには、(おの)や大型ナイフを装備した者が控えている。光量が足りないのか、種火を元にどんどんたき火の数が増え、周囲に展開されていく。そのおかげで襲撃者の数も見当がついた。ざっと100人くらいか。アルファードの時と同じに。

 村人は怒声や義憤に駆られた叫びを上げるも、矢を放つ気配はないようだった。ただしこちらが少しでも動けば、その限りではないだろう。

 よほど機敏に動けない限りは、()(かつ)に立ち上がることもできはしない。たとえ()(かつ)に立ち上がれるのだとしても、今の自分にはそれすらできない。

 テスターは包囲網からは目を離さず、隣のセラにささやいた。


「悪いセラ。俺、実は――」

「なに? 右手と同じで今度は足も動かない?」

「……気づいてたのか」

「気づくでしょ普通。そういうの、隠される方が迷惑だって分かってる?」


 分かってたし、自分がセラの立場でも同じようなことを言っただろう。


(得体の知れない世界でただひとりの仲間に、どうして俺は()()なんか……)


 なんとかなると、うぬぼれていたのか。それとも……


「すまない。右手と、右足首から先が動かない」

「了解」


 セラはそれだけで済ますと、もうなにも言ってこなかった。

 次に言葉を放ってきたのは、また別の者だった。


「悲しいわテスター。()()()()()()()()()、悪魔の男だったなんて」


 真正面の男の陰から姿を現し、ロザリアが歩み出る。本気で言っていないことは明らかだったが、テスターはあえて反論した。


「俺は君に愛された覚えはないけど。君が愛しているのは、この(ひつぎ)で死んでいるアルファードだろ」


 耳を澄ますと村人たちの、「……? (ひつぎ)の中に誰かいるのか?」「馬鹿、悪魔の(たわ)(ごと)に耳を貸すな」などというやり取りが聞こえてきた。やはりアルファードの存在は認識されていないらしい。


「ロザリア、決心はついたか?」


 ロザリアの隣に立つ男が、はやる心を抑えるように聞く。いまだ悪魔を『打ち倒さない』のは、ロザリアの希望によるものらしい。


「本当は殺したくないけど……あの人が悪魔の男なら仕方ないわ」


 答える彼女の顔はまさに断腸の思いといった感じで、こんな時でもなければその演技力に感心しているところだった。


「待ってくれ」


 テスターは懇願の声を出した。矢の飛来がないことを確認しながら、慎重に腰を上げる。右足が動かないため、左脚に重心を置いて。


「俺は悪魔の男だけど、セラは関係ない。この()の命は保障してくれ」

「テスター君⁉ なに言って――」


 セラの意見には、彼女を突き飛ばすことで答えた。反射的に弓を引こうとする男たちに、両手を上げて降参の意を示す。


「君らが悪魔を糾弾する義勇軍なら、まさか()()の少女を手にかけるわけないよな?」


 右側へと押しやったセラを視線で指し、テスターはあくまで『お願い』を申し出た。


「テスター。あなたの意見を尊重するわ」


 ロザリアが、隣の男に顔を向ける。

 それが合図ということなのだろう。男は待ってましたとばかりに弓を引いた。


(脇腹と心臓さえ()ければ、(のろ)いは進行しない……!)


 いずこかには当たる覚悟で、そこに賭ける。

 テスターは身をよじり、そして矢が刺し貫いた。

 セラの手のひらを。


「っ……!」

「セラ――なんでっ……⁉」


 動揺に声が引きつる。せっかく突き放したのに、セラが自分から矢の前に飛び込んできたのだ。

 これには矢を放った当人も戸惑いを見せている。


「な……どうして悪魔の男をかばう⁉」

「……あなたたちは、そろいもそろってクズばっかりだ」


 両手を広げてうつむいたまま、セラがうなるような声を出す。矢が貫通した左手は、痛みのためか(けい)(れん)していた。


「呪術師だから、異教徒だから……自分が認めたくないものに全ての不都合を押しつけて、人ひとりをなぶり殺して……自分の幸せを(まも)るために、他人の命はためらいもなく差し出して……ほんと、どっかの馬鹿女を思い出して吐き気がする」

「わ、私はただ、彼を取り戻したいだけよっ……」


 揺れる声で半歩踏み出すロザリア。セラはバッと顔を上げた。


「……させない」


 (けん)(せい)するように、真っすぐにロザリアを見据えて、


「こんな馬鹿げた悲劇のために、テスター君まで殺させないっ!」


 右手で()(がら)を引っつかみ、勢い任せに引き抜いた。

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