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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第7章 月影の哀悼歌
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3.終局のディスペラート① 星が輝いている。

◇ ◇ ◇


 森の中、ひとりの男が見える。

 彼は惑いながら、森の奥へと逃げていた。右手をかばい、足を引きずるようにしながら、それでも必死に走っていた。突然矢を()られたことに混乱しながら、逃げ道を求めていた。生き延びるために。


 そこへ怒れる男が追いつき、(もも)(やいば)を突き立てる。

 彼は悲鳴を上げ、男を振り払い……逃げる、逃げる。

 しかし両足に()()を負っていては、ろくに走ることもできやしない。

 湖へと抜け出たところで、飛来する矢に二の腕をえぐられる。

 ずたぼろになりながら彼は振り向き、絶望する。


 (あま)()の――100人は超すであろう人間が、彼を包囲していた。

 その者たちは(みな)、村の者だ。

 かつて彼が心を通わせようと苦心し、結局は距離を縮めることができなかった者たち。

 (みな)、汚らわしいもの・憎いものを見る目で彼を見ている。


 彼は叫んだ。自分は違うと。

 しかし(あま)()の目は彼を許さなかった。

 勝手に設けた偽りの罪で、彼を断罪した。

 脇腹を裂かれた彼は、最後には心臓を貫かれ……命の()を永遠に消した。


 彼は悪魔の男ではなかったのに。

 俺は悪魔の男ではなかったのに。

 どうして彼が殺されるんだ。

 どうして俺が殺されるんだ。

 彼が殺され――俺が殺され――彼――俺が――


「…………?」


 ずりずりと、なにかを引きずるような音。

 引きずられているのは自分だと、曖昧な感覚の中で理解する。視界が暗いのは目を閉じているからだ。


 身体(からだ)の自由が利かない。どうやら両手両足を拘束されている上に、二の腕を押さえつけるようにして、上半身も縛られているようだ。腰回りの感覚から、()(けん)は取り上げられていることが分かる。

 負傷したはずの左(もも)からは、痛みがすっかり引いていた。この分だと右手同様、傷痕すら消えているかもしれない。


 目を()けると、木々の葉で所々隠された空が見えた。すでに日は落ち、本格的な夜へと突入している。

 日が暮れるほどの間、意識を失っていたということか。それとも、


「――なあ、大丈夫か? あいつ復活とかしないか?」

「大丈夫だろう。念のため、女神様の()(ぜん)に葬ったんだ。それでも気になるなら、しばらくは毎日交代で様子を見に行けばいい」

「そうだな……なんにせよ、これで悪魔の男はいなくなったわけだ」

「そういうことだ。俺たちはみんなで、村を(まも)ったんだよ」

(……時間軸を移動してたら、話は別だけど)


 遠くからかすかに聞こえてくる声に、ため息をつく。好ましくない推論ほど、なぜか積極的に後押しされるものだ。

 などと考えている間にも、身体(からだ)は地面の草を無残にへし折りながら、勝手に後ろへと移動していく。身体(からだ)を縛った縄の先端を、誰かが引っ張っているようだ。

 地面に擦れる手を守ろうと身じろぎすると、


「あら、もう目が覚めたの? 眠ってる間に終わらせてあげようと思ってたんだけど」


 誰か――ロザリアが意外そうに声を上げた。肩に引っかけるようにして弓を携えている。背負った矢筒からは、矢に交じって()(けん)(つか)らしきものがはみ出していた。

 身体(からだ)をやや強引にひねって見上げるテスターに、彼女は続ける。


「あなたたちって驚くほど軽いのね。普段、ちゃんとご飯食べてる?」


 テスターは隣で自分同様に引きずられている、セラへと視線を転じた。

 彼女はぐったりとして、身動きひとつしていない。同じ神経毒を受けた自分が無事なのだから、心配することはないだろうが。


「……なんとなく、分かってきたよ」


 テスターは空を見上げた。木々の隙間から見える範囲だけでも、空気がきれいなのだとわかるほどに星が輝いている。

 元始世界に箱庭、そしてこの精錬世界。どの世界をとっても星はある。それもまた、女神の意思なのだろうか……

 そんなとりとめのない疑問を(いだ)きながら、テスターは核心に()れた。


「君が呪術師なんだな?」

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